中学で流行っていたブログ。「メンバー限定公開」の記事も

中学生の頃、ブログが流行っていた。
学校のみんながブログを開設して、学校でのことや、部活のこと、友達と遊んだときのことなんかを書いてアップしていた。

中学1年生のとき、卓球部に入っていたわたしは、同じく卓球部の友達3人と一緒にブログを開設した。わたしはブログに「rabbit」という名前をつけた。覚えたての英単語だった。
わたしは毎日のようにブログを更新した。いいことがあった日も、悪いことがあった日も、ブログに書いた。

卓球部の友達とわたしは部活をやる気があんまりなくて、体育館の隅のほうで昨日書いたブログの話をしたりしていた。
わたしはその中の、Cという友達がとても好きだった。
彼女は明るく、いつでも笑顔で、誰とでも平等に会話できる女の子だった。髪が長くて、薄い眉毛をいつも気にしていた。
Cはそんなに頻繁にはブログを更新しなかった。それでも、ときどき更新すると、とてもおもしろいことを書いていたり、こんなことを思っていたんだと知れることがあって、わたしはCのブログを読むのが大好きだった。

中学1年生の3学期、Cに彼氏ができた。Cにとって初めての彼氏で、Cはよく彼の話をするようになった。ブログにもときどき、彼氏との話を書いていた。
当時のブログには「メンバー限定公開」という機能があって、選ばれたユーザーだけが閲覧可能な記事を書くことができた。Cは彼氏の話をするとき、いつもメンバー限定公開にしていた。わたしはその「メンバー」の中にいることを嬉しく思っていた。

Cが困ればいいと思った。Cが怒って、わたしと喋ってくれたらいいと思った

Cは彼氏ができてから、同じく彼氏がいる女の子とよく話すようになった。わたしには彼氏がいなくて、Cの話についていけないことが増えていった。
Cに彼氏ができてから、Cとわたしの間には着実に距離ができ始めていた。

ある日、Cがメンバー限定公開の記事で、彼氏との秘密の話をした。もう内容は覚えていないけれど、Cにとっては大切な秘密だったんだと思う。
そんな、Cの秘密を、わたしはほかの人に話してしまった。
案の定Cは怒って、わたしはCに詰め寄られた。
「なんでこんなことするん?」と聞かれて、わたしは「Cが好きだから」とは言えず、ただ「ごめんなさい」と言った。悪いことをした、ということはわかっていたつもりだったけれど、Cが信頼を裏切られて傷ついている顔を見て、本当にいけないことをしたんだ、と初めてわかった。

だって、Cが困ればいいと思った。Cが怒って、わたしと喋ってくれたらいいと思った。Cが男の子の話ばかりをして、わたしのほうを見てくれなくなるのがつらかった。
でもそんなのは全て言い訳で、Cからすれば、メンバーにだけ打ち明けた秘密をバラされただけだ。
Cが傷ついて怒っている姿を目の当たりにして、わたしは泣いてしまった。泣くのはわたしじゃないのに、と思ったけれど、涙が止まらなかった。Cは優しいから「もういいよ」と呟いた。

わたしは、Cのことが好きだった。Cの1番になりたかった

それから、中学3年間、Cはわたしの友達でいてくれた。中学を卒業してからは、一切連絡を取らなかった。
数年前、成人式でCに再会した。
中学生の頃の思い出はあまり楽しいものがなくて、成人式の後に行われる同窓会に行くか迷っていたら、Cがわたしに「一緒に行こ」と声をかけてくれた。
嬉しさと同時に複雑な気持ちがあったのは、わたしがあの日のことを忘れていなかったからだ。
Cがわたしに「なんで?」と聞いた日。わたしがCに、好きだからと言えなかった日。

Cとお酒を飲むのは楽しかった。今付き合っている人の話をするのを、昔とは違って、穏やかな気持ちで聴けることに安心した。
それから、Cとはときどき連絡を取り合っている。
わたしは、Cのことが好きだった。本当は、Cの1番になりたかった。なれないなら、嫌われてでもいいから、わたしのことを見てほしかった。
恋愛感情みたいだな、と思うくらい、複雑で、重たい気持ちを、Cに対して抱いていた。