大学に入ったら、何か新しいことをしてみたい。
そんなことをぼんやり考えていたはずなのだが、特に自分から行動を起こすでもなく、だらだらと授業を受けるだけの日々を過ごしてしまった。
もうそろそろ成人式の振袖を選びに行かなくちゃなあ、なんて考えていた夏のある日、同じ小学校を卒業した友人から連絡があった。

治安の悪い地元で、成人式の実行委員会に参加することになった

「成人式の実行委員を探しているんだけど、よかったら一緒にやらない?」

そんな内容だったと思う。中々大変そうではあったが、特にやることもないので二つ返事で引き受けた。

成人式まで半年以上あったが、やることはたくさんあった。想像していたより市の成人式というのはプログラムが決まっておらず、当日の流れやレクリエーション、人員配置など、全て実行委員が主体となって決めていった。

先輩たちがこれまでやってきた式のいいところを受け継ぎ、新しいものも追加していく。成人式の行われる地元はあまり治安が良くなく、毎年誰かが暴れて騒ぎになることが問題視されていた。

気配りをして、地元の悪いイメージを払拭するために知恵を絞った

「去年はモニュメントに人が登って上から落ちて、救急車が呼ばれたんだよね。ほら、あの広場の真ん中にある」
私を実行委員に誘った友人がため息をつく。

「柵で囲ってあったんじゃなかった?」
「囲ってあったのを勝手にどかしたみたいなの。みんな酔っ払ってるから歯止めが効かないんだよね」

成人式の時点で二十歳を越えている人も多く、お祭り気分で飲酒している輩もいるようだった。

「じゃあこういうのはどうかな?」
他の実行委員から、囲った柵に“成人おめでとう”とデコレーションをしてしまうのはどうかと案があった。確かに飾りがあれば破壊しづらいはずだと、その案が採用された。(結果としてこれはうまくいった。祝いの言葉を破壊してまでモニュメントによじ登る輩はいなかった)

「そうそう、去年自分のチームの旗を持ち込んで、式場内で振り回して怪我人も出たんだよね」
「旗?」
「オリジナルの国旗みたいな大きなやつ。やんちゃな子たちは自作するんだって」
「何それ、初めて聞いた。それは入口で没収して……没収するだけだと暴れそうだから、飾る場所をこっちで用意しておこうか」
「入口に旗を立てられる場所を作るね」

とまあこんな感じで、本当に細かいところまで気配りが必要だった。ガラが悪い、治安が悪いと言われていたが、何とかそのイメージを払拭しようと実行委員で知恵を搾った。

目立つのが嫌いで臆病な私は、人生において勢いの大切さを知った

毎週実行委員で集まり、話し合いを重ね、とうとう式の当日がやってきた。
私は司会進行をすることになっており、妨害されないか、果ては物が飛んでこないかと、終始ヒヤヒヤしていた。(幸い飛んできたのはヤジだけだった。)
慎重にスケジュールを組んだ甲斐もあり、式は無事終了した。私の年は、警察も救急車も呼ばれることは無かった。快挙だった。

今でも、よく柄にもないことをできたなあとしみじみ思う。目立つのが嫌いで臆病なのに実行委員、さらに司会進行とは、正気ではなかった。
でも引き受けてみてよかった、挑戦してよかったと心から思う。若気の至りかもしれないが、人生において勢いというのは、案外必要なものだ。

このエッセイを読んだ「なにかしてみたい」というぼんやりした願望を持った方は、ぜひ後先のことなんか考えず、目の前のチャンスに飛び込んでみて欲しい。