私は中学生のときに、科学部に所属していた。科学部といっても活動中に実験をしたことなどほとんどなく、基本的に野菜や魚を育てていた。科学部といってもバリバリの理系が集まっているというわけではなく、ただ科学部の活動は楽だという噂を聞きつけてやってきた無気力系の部員が多かった。
しかし、もちろん純粋な科学好きな部員が2人だけいた。理科の参考書をずっと読んでいたり、小さいときから図鑑を暗記していたり、彼らはいかにも科学部員らしい科学部員だった。
中学2年生の夏休み終わりに尊敬する2人と大会に出ることになった
私はといえば、勉強が好きで理科が得意教科だったが、それ以上でもそれ以下でもない生徒だった。だから、科学部の中で理科好きを発揮している同級生をまぶしく思っていた。大げさかもしれないが、当時は彼らのことを尊敬していたのだ。
中学2年生の夏休み終わりに、県内で各中学校の科学部員の知識や技術を比べる大会が行われることになった。この県大会を抜ければ、全国大会に行けるような大きな大会である。夏休み直前に、私はこの大会に部の代表として参加することになった。あの、尊敬する2人とともに。
大きな大会に参加できることは嬉しい、あの2人が大会でどんな活躍を見せるのかを考えるとワクワクする。その一方で、私があの2人と釣り合っているのかとても不安だった。あの2人の足を引っ張って終わるのではないかと、心配でたまらなかった。尊敬している2人の足を引っ張って終わるなど、恥ずかしすぎる……。
だから、私は自分で理科の勉強をすることにした。中学2年生の夏に、中学3年生の理科を勉強することに決めたのだ。特別な知識を今から蓄えるよりも参考書やドリルが存在する勉強の方が現実的だと思ったし、予習をしないと2人の話にもついていけないのではないかという不安もあった。
中2の理科も終了していないのに、中3の理科がわかるわけない!
でも、うまくいかない。中学2年生分の理科も3分の1しか終わっていないのだから、中学生の夏休みだけで中学理科を半分予習することになる。1か月で1年半分の勉強ができるのなら、義務教育は6か月でいいだろう。
しかも、うまくいっていないことに焦ると、3年生の理科の勉強を早くしないといけないという気になってしまって、2年生の予習をせずに3年生分の参考書に手を出してしまう。これが負のループの始まりで、3年生の参考書を読んでもチンプンカンプンなので眠たくなってしまう、目が覚めると1時間弱の時間が奪われていて、さらに焦ってしまう。
さらに追い打ちをかけたのは、平日昼間に再放送されているドラマである。夏休みの時期だからなのか、青春! 部活! というような作品が放送されていて、休憩時間に目に入ろうものならドラマの主人公の順風満帆さに圧倒されて自分がみじめに思えた。昼寝して、目を覚ますためにテレビをつけたらドラマが放送されていたときには、涙目になって机に向かうこともあった。
あるとき、テレビをつけると教育番組の中でかみ砕いて高校理科を解説している番組を見つけた。高校理科の番組があるのなら、中学理科用の解説番組があってもおかしくないと思った私はインターネットで勉強することにした。
幸いにも、動画配信サイトには一般の方が中学理科を解説した動画がたくさんあって、活用できそうであった。私はこの動画によって、1か月で中学理科を予習し終わることができるかもしれないと、初めて前向きに考えられるようになった。
前向きになったことで、勉強計画を冷静に見つめなおすことができた
そして、前向きになったことで勉強計画を冷静に見つめなおすことができた。冷静になってみて分かったことは、生物学分野と地学分野は、暗記がほとんどだから毎日赤シートで勉強すれば怖くないこと、中学2年生と3年生の勉強はつながっているので、2年生の範囲を時間をかけてしっかり理解すれば3年生の範囲の理解も早くなること。
不安で自信がなかった私は、あの夏の挑戦を通して前向き思考が冷静さをもたらすことと、急がば回れという諺は、真理であることを学んだのである。
結局、大会の結果は全国大会に箸にも棒にもかからなかったが、あの2人の横に自信を持って立てたあの夏の挑戦は、今でも私を勇気づけてくれる。