「むずかしいこと考えずにさ、とりあえず彼氏つくってみたら? 経験があれば、本当に好きな人ができたとき、どうしたらいいか勉強になるし」大学1年のとき、恋愛経験ゼロだった私と、数人の友人にむかって、ゼミが一緒のギャルが言っていた。

いや、とりあえずで彼氏できてたら、大学生にもなって「そもそも、男の子となにを話せばいいんだろう」なんて考えないし。〇〇年もののはじめて、そのへんの誰かに捧げられるかいな。なんて考えていたら、24歳になっていた。

マイペースな彼と恋愛経験ゼロな私の恋は、まだスタートしていない

好きな人ができた。どれくらいぶりなんだろう。出会いは現代と、コロナ禍にありがちなやつ。ちっともロマンチックなものではなくて、逆に安心できる。

はじめて会ったのは、9月のおわり。幾度も二人で食事をしたり、お散歩したりして、秋冬春がすぎて、夏がこようとしている今。私と彼は、交際のスタートすらさせていない。

「彼、オクテの星出身?」彼女がいたことはあるらしいけど、そうかもしれない。マイペースで仕事人間の彼と、恋愛経験ゼロで人(とくに男性)に慣れることすら苦手な私は、とてつもなく相性が悪い。

「もう会って半年以上か。いい加減、進展させたいでしょ?」と仲のよい先輩から言われて、うなづくしかなかった。ちなみに11月にも、おなじことを言われている。

11月ころの私は、ネットで見た「告白は3度目のデートで!」を鵜呑みにして待っていたものの、なにもなく不安になっていた。4度目のデートでは、食事のついでに秋葉原を散歩して、変な自販機なんかを見てくだらない話をしていたので、「私はただの友だちだと思われてるんだな……」と消沈。先輩も「仲はよさそうだねぇ」としか言えないようだった。

5回目のデートで手を繋いだけど、「好き」がないと確証が得られない

「手の甲を、自然にぶつかった感じでコツコツ叩くと、気づいて自然と手をつなぐ流れになるかも」と5回目のデートを前に、新たなアドバイスをもらった。会って食事をして、帰り道に「ちょっと散歩しようか」となったところで、実行に移した。

20分もコツコツをくりかえし、グリグリに変わったころ「さっきから、すごい手をグリグリされてる」と言って、ようやく彼は私の手をとった。普通に痛いから、やめさせたかっただけかもしれないが、手をつなぐことに成功した。

帰りの電車に乗るとき、Suicaのタッチがうまくできなくて、彼は通せんぼをくらっていた。顔色ひとつ変えないように見えたけど、動揺していたんだろうか。本当に、オクテの星出身なだけかもしれない。

彼から好意らしき言葉を、受け取ったことはある。年下は苦手だったけど、あなたは話しやすい。かわいい漫画のキャラに似ている、こんなすてきなキャラが実在したら、好きになってしまうかもしれない。あとは一応、嫌がらずに手をつないでくれたし。

例のごとく先輩に相談したら、「それは『好き』でいいんじゃない?」と返ってくる。いやわかんないよ、いつもと変わらない顔で、そんなふんわり言われても。顔を赤らめて「好き」って言ってもらえるまで、確証なんて得られないよ、私には……。

ただのオクテ人間。それだけと言っても、私にとっては大きな問題だった。だって私、恋愛経験ゼロ。結局、手をつなぐ以上の進展ができない。そんなとき、大学時代に聞いた言葉を思い出した。「本当に好きな人ができたときのため、とりあえず経験しときなよ」という言葉を。

向こうから「好き」って言ってこないなら、こちらから行くしかない!

彼と出会う前に、そのへんの誰かとつきあって、経験値を得られていたら。彼の好意もいい女っぽく「ありがと」と受け取って、ぐいぐいアタックして、3回目のデートで自分から告白できていたら。こんなふうに悩むことはなかったんだろう。

でも、そのへんの誰かは、彼ほど優しいだろうか。秋葉原の変な自販機には興味をもってくれるだろうか。LINEの返信に、カワウソやペンギンのかわいいスタンプはつけてくれないんじゃないか。思い出せる「好き」がささいなものであるほど、やっぱりはじめては、恋愛を遠ざけていた私が好きだと思える人がいいなぁ、と思う。

「告白は出会って3か月ころがオススメ! 半年経過すると、友だち認定されちゃうかも?」3回目くらいの「次に会ったときこそ、進展させてやる」という覚悟を前に、恋愛アドバイザー系ユーチューバーがそれをこなごなにする一言をくらわせる。

いや会って3か月とか、3回目のデートとか、そのへんの誰かとつきあった経験値とか、それが彼と私の正解なのか? オクテ人間の彼と、恋愛経験ゼロの私。もう向こうからこないなら、こちらからいくしかないことはわかっている。「好き」って言うのなんて……大丈夫、1秒でできる。怖いだけ。

その1秒を迎えないと、関係も悩みも、今のままだ。壊れようが成就しようが、この関係を“恋”にしたい。