酔った勢いで始まったあの時からもう一年以上経つのに、私はまだ先に進めていない。
池袋の居酒屋で仕事終わりに友人数人と呑んでいた。その頃仕事でいろいろあり、弱っていた私が飲みすぎて潰れてしまったらしい。

気づいたら誰もいなくて、私は知らない天井を見ていた。隣には同じグループにいても普段二人ではあまり話さない彼がいた。しかもお互い裸で。我ながらよくある量産的な始まり方だなと酔った頭で思っていた。

二十歳だった私は、まんまと彼との関係にハマってしまった

大学生や若者にはありがちと言っては失礼かもしれないが、よく友人からもそんな始まりでセフレが出来たと聞いたことがある。

あれからは私たちはお互い予定を立てるわけでもなく、『今どこ?』『十分で着く』こんな感じで集まり朝には解散する。多い時では週に三日、少なくとも週に一度は必ず。そんな曖昧な日々が半年も続いた。

あの頃二十歳だった私にはそんな相手が初めてで、まんまと彼との関係にハマってしまった。良くも悪くも彼は恋人がずっといなかった。

顔もスタイルも良くモテないわけではないはずで、どちらかと言えばクラスの一軍に所属するような人だ。だから恋人が出来ないというよりは、あえて作らない感じだったのだろう。

私はそんな彼と安いコンビニの缶チューハイを飲んで、酔っ払って、おんぶしたりしてじゃれあいながらホテルに向かうあの時間が好きだった。

ホテルの大きいベットの上に寝転び、大きいテレビで古いフランス映画を見た。字幕が付いていなかったので内容はさっぱり分からなかったし、映画の題名すらも分からなかった。

ただ、素敵だなと思った。その後はジャグジー付きのお風呂で体を洗いっこし、セックスをし、彼の腕の中で眠った。

ちゃんと恋をしてしまったのだ。彼に会いたくてしょうがなかった

これを世間はセフレというのだろう。自分でも分かっていた。しかしもう止められなかった。この時は好きかもしれないではなく、私は彼のことが本気で好きだった。ちゃんと恋をしてしまったのだ。彼に会いたくてしょうがなかった。

ある日、いつもと同じくホテルの客室に入った途端、彼が『今日で終わりにしよう』と言った。私は何が何だかわからずに、どうしようもなくただ泣いてしまった。

『この関係はお互い割り切ってるから続けられた、俺はおまえの気持ちに応えることができない。だから今日で終わりにしよう』と。

彼には以前から、『絶対おまえとは付き合わない』と言われ続けていた。彼曰く、セフレから始まった二人は付き合っても上手くいかないという考えらしい。

それを言われた時、私は全力で否定した。『そんなこと付き合ってみないとわからない』と。

だが、彼の意思は固かった。その日から私は絶対に彼に気持ちがバレないよう隠し続けてきた。どうしても離れたくなかった。

本当に幸せな時間だった。この思い出を綺麗なままで終わらせたくて

彼はセフレは私が初めてだと言っていた。今まで一夜限りの女の子はいたが、こんなに頻繁に会う子はいなかったと。私はこの半年間、彼女ではなくセフレという立場だったが、ずっと彼を独占できていたのだ。

いつか彼に本当の彼女ができるかもしれない、そしたら私は離れなければならない。分かっていたが今だけは、と自分の気持ちを抑えていた。

しかし、彼には私の気持ちが全てバレていた。はっきり言われてしまった。私自身もこの関係を続けてもどうにもならないことくらいは分かっていた。

彼と過ごした半年は本当に幸せな時間だった。だからこそ、この思い出を綺麗なままで終わらせたくて私は素直に受け入れた。

その日から彼と私は一度も会っていないし、連絡も一切取っていない。連絡したら彼に会いたくなる。私はまだ未練がある。この芽生えてしまった気持ちはそんな簡単には消えてくれない。

酔った勢いで始まった恋愛だが、私の中には固いしこりのようにずっと残り続けている。

新しい恋なんか探そうと思えない。でも今は無理に消さなくても良いかなと思っている。

きっと石ころのように削れて消えていくはずだ。それまで気長に待とうと思う。