「裏切る」の意味を改めて調べてみると、ある記憶が蘇ってきた

「裏切る」とはなんだろう。意味を調べてみると「1.味方に背いて敵方につく 2.約束・信義・期待などに反する」とあった。果たして、1はともかく、2に当てはまったことのない人間がこの世にいるのだろうか。特に期待。期待に反することなど、誰もが一度や二度、あるのではないだろうか。

だけれども、そもそも他人に期待をするほうがおかしいのではないか。だって他人は誰かにとっての駒じゃない。意に沿うことばかりをやってくれる存在などいない。音声検索のアレでさえ「すみません、よくわかりませんでした」と答えるのだ。

キミはなんのためにいるのだ、検索のためにいるのではないのか。アレにそう怒る人間はいるのだろうか。たぶんいないだろう。
「期待する」ことがそもそも間違っているのだ。

では、1の意味での裏切りは?
味方に背いて敵方につく。戦国時代か。戦でもしているのか。甚だバカバカしい、と思うと同時に、ある記憶が蘇る。

思っていることをあの子に伝えたら、クラス中に悪い噂を流された

わたしが庇ったあの子。あの子はわたしを裏切った。わたしはひとりになった。
中学三年生のときのことだ。いまでも思い出すと心臓の鼓動が早くなる、それなのに血の気の引く感覚がある、手が震える、吐き気がする。

あの子は嫌われていた。わたしもほんとうは嫌いだった。だけど見捨てられなかった。わたしが離れたらあの子はひとりぼっちになってしまうから。
わがままで自分のことしか考えていないあの子。嫌いなのに何故か憎めない部分のあったあの子。クラス中の女子から「仲良いならどうにかしてよ」と言われていた。

わたしに言われても、と思いながら、どうしたらいいのだろう、と悩みに悩んで、思っていることを伝えた。もう少し周りを見たほうがいい、と。
あの子は猛烈に怒った。「美緒はそうやって裏切るんだね」と言った。なにが裏切りなのか分からなかった。わたしはあの子のために言ったのに。

次の日学校へ行くと、わたしの悪い噂が流れていることを知った。クラス中の冷たい視線を浴びながら、どうやらあの子があることないこと言いふらしたらしい、ということが耳に入った。

ああ、報復されたのか、と思った。わたしがあの子にとって「よい存在」ではなくなったから、いらなくなったから。
わたしは絶望したし、元々嫌いだった人間がさらに嫌いになった。

わたしもあの子も期待していた。思いがぶつかり合って、裏切られた

いま思うと、あれはあの子の「期待に反する」行為だったのだろう。あの子は自由気ままでわがままな、そんな自分を「全面的に肯定してくれる存在」が欲しかっただけなのだろう。あの子のそばにいるのは、わたしでなくてもよかったのだ。きっと。
そしてわたしもあの子に「期待していた」のだろう。わたしが周りを見たほうがいいと伝えることであの子が「変わってくれる」ことを。

お互いの期待がぶつかりあって、捻れて、絡まって、そして「裏切られた」

どちらが、ではない。
どちらも、「裏切られた」のだ。いまなら分かる。他人に期待などするべきではなかったのに。

わたしはいまでもあの子が嫌いだ。あのとき、数日経ってから何事もなかったかのように話しかけてきたあの子が。あれから10年以上経ったいまでも気軽に「会おう」と言ってくるあの子が。

わたしは「期待」している。
あの子が謝ってくれることを。「あのときはごめん」と言ってきてくれることを。でも決してそれをあの子に伝えはしない。「会おう」と言ってくるあの子との約束を毎度断ることで、わたしはずっと、あの子にあの頃の「裏切り」の続きをしている。

わたしは今後一生、あの子を許すことはないだろう。あの子がわたしの「裏切り」に気づくことも。そんな歪な関係を、たぶんずっと、続けていくのだ。
愛憎絡まったこの気持ちを抱えて。