信じていた彼に突然振られた。
理由が、他に好きな子が出来てその子と付き合うことにしたから。信じられなかった。
付き合っていたとき、彼とは毎日のように会って週末毎に出かけた。いたるところに彼との思い出が散りばめられていた。この街は彼との思い出で形成されているといっても大げさではなかった。

振られて4カ月ほどたって、彼に会って気持ちを精算させたいと思った

苦しかった。
彼がいなくなった喪失感、裏切られたことによる憎しみ、それでも好きだという気持ち、彼がほかの子と付き合っているという事実、考えないようにしようとしても彼が出てきた。
心がズキズキと痛んだ。心臓に致命傷ギリギリの深い傷を負ったような気持ちだった。
私は楽な人生を生きてきたんだなと心底思った。こんな苦しみ悲しみは知らなかった。
彼と付き合っていた日々がついこのあいだのことなのにもう2度と戻ることがないのだと思ったら、傷を負った心臓を鷲掴みにされたような生き苦しさと痛みが走った。
4カ月ほどたって、だいぶ痛みが収まったとき、彼に会って気持ちを精算させたい、と思った。
彼がいつか私に戻ってくるのではないか、そんな気持ちが彼を忘れられない理由になっていると思ったからだった。

彼に4ヶ月ぶりに連絡をするとすぐに返事が来た。
久しぶりの彼はヒゲを生やしていて私に、会えて嬉しい、とニコニコしながら言った。
彼と私は付き合っていた時とほとんど変わらないような感じで色々な話をした。
彼は私と別れて付き合ってた子と、うまくいっているようだった。

笑顔を見ていたら、忘れようと頑張ってきた彼の思い出が鮮明に蘇った

覚悟していたことなのに彼がわたし以外の子と週末いろんなところに遊びに行って、わたし以外の子に夢中になっているという事実にどうしても傷ついた。
しかし彼の態度は私のことが少なくとも嫌いではないことを感じさせるものだった。
彼は私と別れて失恋の痛みを知ったこと、私を考える時間が今の彼女を考える時間より長いこと、撮った写真をいまだに携帯ケースから抜き取れないことを語った。
しかしそんなことを言うわりに彼は今の彼女と別れる気は全く無いようだった。

私は彼に意を決して聞いた。私と彼女を比べて彼女を選んだ理由は何?
彼は、わたし以外の子と付き合ってみたくなったからかな、と言った。
それが答えだった。彼と会わない方がよかったと思った。

我ながら未練がましくて感傷的な文章の手紙を一方的に渡した

彼と会うと心の傷がぱっくりと開くことを感じた。
4ヶ月間、じりじりと心臓が痛みに耐えてやっと楽になったと思ったのに、彼と会ったことで彼が送る彼女との楽しい日々を垣間見てしまった。
彼の笑顔を見ていたら忘れようと頑張ってきた彼との思い出が鮮明に蘇ってしまった。
私は本当に愚かだ、と思った。
自分で自分の首を絞めるとはまさにこのことだった。

私は彼に手紙を書いた。
これからはもう会わないこと、連絡も一切しないこと、付き合っていた時すごく幸せだったことを書いた。我ながら未練がましくて感傷的な文章だった。
彼に手紙を一方的に渡してその下書きを部屋の机に入れた。
連絡先はブロックして削除した。
彼とこれから先会うことがないことはもう不思議と寂しくなかった。
ただ思い出だけが相変わらずいたるところに落ちていて、私の心を情けなく揺さぶり続けていた。