新しい鍵、新しい家具、新しい食器、新しい時間。

同棲、それはとめどなく溢れるドキドキとワクワク。大好きな人との新しい生活に胸は踊る。
しかし一方でよぎるのは、一抹の不安。その最たるのが、
「同棲を始めると相手の嫌な面が見えて関係が悪化する」
「家事の格差によるストレス」
などという先人たちの声ではなかろうか。

1つなにかをしてくれただけで「え?!天才?!」と嬉しくなる

わたしは現在の夫と交際7年半で同棲を始めた。
この人について知らないことはあまりないと思っていたわたしでも、同棲を始めるにあたり不安はあった。
特に彼の母親は完璧なひとだった。エリート専業主婦、って感じだ。
そんな母親の元で26年過ごした彼がまともに家事が出来るとは思えなかった。

不安を抱きつつも始まった同棲生活。どうにかなる精神で家事分担はしなかった。
まず、わたしはわりと家事が嫌いじゃなかった。
もうひとつは、わたしは彼に一切の期待を抱いていなかった。

家のことについては彼はしなくて元々、という心持ちでいると、1つなにかをしてくれただけで「え?!天才?!」と嬉しくなるのだ。親バカならぬ嫁バカ炸裂である。
お互い休みの日には洗濯物を一緒に干したりしてくれた。
わたしだけ仕事の日は夕飯を作って待っていてくれた。
それだけでもうわたしにとっては「やさしい!ありがとう!!天才!!!」なのである。やはり期待は抱かないに越したことはない。

我が家の平和が保たれているのは、彼の「ありがとう」のおかげ

しかしどうやら、揉め事にならない理由はそれだけではなかったようだ。
寒いほどありきたりな話だが、大事なのだなと気づいたので言わせてほしい。

彼は事ある毎に、「ありがとう」と言う。
それは友人や母に話すと驚かれるくらいの頻度で、たとえば夜仕事から帰ってきたあとだけでもいただきますの前、ごちそうさまの後、食器洗う前、食器洗い終わった後、と少なくとも4回は言う。
デザートの準備した日はその分増える。
マッサージをしてあげてる時は各部位、左右毎に言う。
たまに何もしなくても言う。
寝言で「××(私の名前)ありがとぅ…」と言っていたこともある。

一度、「いつもいつもなにからなにまで、ありがとうねえ」と言われたとき、
「わたしはあなたがそうやっていつも感謝してくれるから全然苦じゃないよ」
「感謝の気持ちがなくなることは絶対にないよ」
なんて会話をしたことを、今思い出した。
わたしはそんな愛おしい会話も忘れていま、彼の毎度の「ありがとうねえ」を聞き流している。それのおかげで我が家の平和は保たれていることにも気づかず。

わたしに不満が溜まらないのは、それに見合うだけの感謝があるから

結局いまのところ彼が行う家事は、たまに夕飯準備、たまに食器洗い、たまに観葉植物の水やり 程度のもので、掃除、洗濯、料理、買物、ゴミ集め、ゴミ出し…その他多岐にわたる名も無き家事はわたしの役目である。

それでもわたしに不満が溜まらないのは、それに見合うだけの感謝を言葉なり態度でいただいているからだ。
彼の名誉の為に言っておくが、家・車・インターネット・保険等様々な契約関連は彼に任せっきりだし、彼はサラリーマンでわたしは週3パート主婦であり、生活費のほぼを賄ってもらっている点からしてもこのくらいがちょうど良いことも事実ではある。

しかしこれはあくまでもわたしが不満を感じない理由であり、相手が不満を感じない理由にはなっていない。
同棲開始によるストレスや不満はなにもこちらだけの問題じゃない。
掃除も洗濯もそれなりにやっているつもりだし、料理も下手な自覚はないし、あまり不自由やストレスは与えていないつもりだがそこは彼本人にしかわからない。
最近冷たくあしらってしまうことも増えたし、逆にこちらが愛想を尽かされないよう、それなりの努力はしていかなければならないな、と気を引き締める。