1つ行動を変えるだけで、すべての景色が変わったような気持ちになることがある。

映画館に行くために、いつもと違う小さな駅で下車。初めて入る商店街

先日、自宅から30分もかからない映画館に行った。
その映画館は商店街の中にあって、その商店街には何度も行ったことがあるのに、映画館を訪れたのは初めてのことだった。その商店街は1駅分以上の長さがあるので、端から端から渡り切ったことすらなかったのだ。

私はいつも東側の入り口からその商店街に入り、途中で曲がる。その映画館は西側の入り口に近かったので、私はその映画館がこの商店街の中にあることは知っていても、前を通る機会がなかった。

その日、私は映画館に行こうと思ったので、いつもの商店街の東側にある大きな駅ではなく西側の小さな駅で降りた。初めて西側から入った商店街は、東側と同じポスターが貼ってあって、東側と同じように古びたアーケードに覆われていた。

ただ、東側に比べて大きな駅から遠いので、活気は無いように思える。しかし、そこが良かった。
ところどころ、洒落たカフェやオーガニックにこだわったレストランがありつつ、地元の商店街感あふれる八百屋やリサイクルショップがあった。

その風景は、私のようなその地域外の人を受け入れるための施設もありつつ、その地域の人のための施設もありつつで、別の人の庭を歩いているような不思議な気分だった。

映画館で勧められた古本屋は、商店街らしい個人経営のお店だった

商店街を歩いていると、映画館が見えてきた。商店街の中で、スクリーンが一つだけで営業している小さな小さな映画館だった。
テレビのCMで紹介されていないような映画のポスターばかりが貼ってある映画館では、館内アナウンスをすべてスタッフの方がその場で行っていた。なんだか玄人向けにも見える映画館で、私は大人ぶった気分で映画を見た。

その後、映画館で勧められたいくつかの古本屋に行った。どちらも好きだが基本的にはチェーン店ばかりにお世話になっている。しかし、ここはやはり商店街の中にある個人経営のお店をめぐることとなった。

少し勇気を出して、ビルの2階のただ看板が掛けられただけのドアを開けてみると、そこには本と店主しかいない。夕日が差し込み、閉店まであと1時間だというのに、私はなぜか焦らずにじっくりと本を眺めていた。
狭い部屋の中で、気まずい気持ちを抱いてもおかしくない距離に店主がいるのに、まったく気にならなかった。熟考の末に本を2冊買った。

少し歩くと、広がってくるのはいつもの見慣れた風景

古本屋から少し歩くと、私の知っている商店街の風景になってきた。チェーン店のうどん屋やドラッグストアを通り過ぎ、商店街から出ると大きな駅前のビルや百貨店が見えてくる。
ここまで来たら、いよいよ知っている風景が広がってきた。

私はこの日、利用する駅を1つ変えただけなのである。映画館に行くだけなら東側から歩いても良かったものを、西側から歩いた。歩いたのは同じ商店街なのに、商店街の雰囲気が違うことに気づけた。この気づきが私をワクワクとさせたのだ。

そして、映画館に着いて少し大人な気分を味わったかと思えば、古本屋ではいつもの自分ではないような気持で本を選んだ。
1つ行動を変えると、たくさんの景色が変わる。景色が変われば気持ちも変わり、まるで別の世界に迷い込んだかのような緊張感と高揚感を覚えた。

しかし、帰り道のいつもの風景は、まるで商店街での非日常感を思い出すことを許してくれず、なんだか夢でも見ていたようなふわふわとした気持で帰路についた。