平均より高い背
日本人にしては大きないかり肩
張った骨盤に太い腿と歪な膝
ストレートと言えば聞こえはいいが、針金のように扱いづらい髪の毛
低い鼻、小さな目、すぐに荒れる肌と唇
私はお世辞にも「美人」でも「可愛い子」でもなかった。
かわいいピンク色のワンピース。でもそれが似合うのは私ではなかった
フリーサイズが私にとって「フリー」だった試しがない。
フリーサイズなんて155㎝43㎏の女の子が着るものだ。大柄な私には到底着れない。
可愛い小花柄もミニスカートも
ふわふわのブラウスもオーバーサイズのニットも
華奢で可愛らしい子にしか似合わない。
フリーサイズが似合う子が羨ましかった。
ある冬の日、新宿のルミネは一足早く春を告げていた。
パステルカラーの洋服たち、見ているだけで心が躍る。
ふと、ピンク色のロングワンピースが目に入った。
パッチワークで濃淡様々なピンクが表現されてある。
吸い込まれるようにお店に入った。
生地は柔らかく落ち感が綺麗で、肩の切り返しも着る人のサイズを選ばないように工夫されている。
店員さんに試着を頼み、心を躍らせながら袖を通した。
試着室を出て大きな鏡で自分を見た。
ワンピースはとても可愛かった。
ラインが綺麗で、丈感もちょうど良く上品に見せてくれる。
でも、それが似合うのは私ではなかった。
もっと首が細くて柔らかな茶色の髪の、そう、ちょうどあの彼女のようなー
急に自分が惨めになって、店員さんにお礼を言い試着室に入り急いで着替えた。
店員さんに謝りながらそそくさと店を出た。
彼女はそう、誰が見ても華奢で可愛い女の子だった。
先日別れたばかりの恋人の浮気相手。いや、浮気相手と言ったら失礼かもしれない。
きっと私の方が浮気相手だったのだ。
駅に向かって早足に歩くと涙が滲んだ。
私には似合わない、あの服も私を選ばない。
目を閉じると、ピンク色のあのワンピースを着て彼の隣を歩く彼女が見えた。
鮮やかな赤色のペイズリー柄のスカートに目を奪われた
冬が終わり、私は仕事の関係で関東を離れた。
戦後に繊維産業で栄えたこの街の商店街は、圧倒的に服屋が多い。
しかし過去の栄光の抜け殻だけが残り、今はすっかり寂れている。
一部は飲み屋街となって賑わってはいるが、威勢が良いのはチェーン店ばかりだ。
そんな空騒ぎの飲み屋街の中、ひっそりとその店はあった。
レンガを基調とした店構え、日本には中々ない鮮やかな原色の服たち。
ふらりと店に入ると、メガネをかけた小洒落たおじさんが出てきた。
軽く会釈をして店内を散策する。
アメリカンレトロな服があったかと思えば、民族衣装風な巻きスカートもある。
ゴテゴテとした大ぶりなアクセサリー、ビンテージのパンツ、70年代にはやったようなブラウス。
異色なものたちが詰め込まれた空間は不思議と統一感があった。
「ここに来るのは初めて?」
おじさんが声をかけてきた。
「はい、越してきたばかりで。あの、ここは古着屋ですか?それともセレクトショップ?」
「両方だね。主にアメリカで古着を仕入れているよ。
あとは仕入れたものを自分でアレンジしたり。このスカートなんか今風に丈とボリュームを調整したんだ」
鮮やかな赤色のペイズリー柄のスカート。
女の子は誰しも一度は赤いスカートに憧れるはずだ。思わず目を奪われた。
「あなたは背が高いしバストの位置が高いから短めのブラウスと合わせてこのスカートを履いたらきっと似合うよ」
胸が高鳴るのを感じながら、言われたままに試着をした。
鏡に映る自分は知らない自分だった。
いい。とてもいい。
これに麦わら帽をかぶって出かけてみたい。
勢いのままスカートとブラウスを買って、お礼を言いながら店を後にした。
あの冬の日の惨めさはもうなかった。
私は私に似合うおしゃれを楽しんでいいんだ
梅雨、ぐずついた天気が続いていた。
せめて服だけでも明るくしたい、そう思ってあの店で買った赤いスカートと短い丈のブラウスを着て出かけた。
信号待ちで立ち止まっている時、ふと隣にいた女性に声をかけられた。
「あら、素敵なスカートね。
憂鬱なお天気だけど元気が出たわ、ありがとう」
そう言って女性は自転車に乗って去っていった。
急に話しかけられたことに驚いて、お礼を言いそびれてしまった。
むずむずと嬉しい感情が込み上げて、思わず涙ぐんだ。
私にも似合う服があるんだ
いわゆる「可愛い子」が似合う服は私には合わない。
でも、私は私に似合うおしゃれを楽しんでいいんだ。
そう思うと毎朝鏡を見るのが楽しくなった。
今日は何を着て出かけようか。