高校生の時にハマったアメリカ映画、大学生の時に毎週欠かさず見ていたドラマ、就活中に元気付けられた小説、それらに登場する主人公には仲のいい友達がいる。
そして彼女たちは頻繁に集まる。恋や仕事で悩むと、おしゃれなカフェや居酒屋で相談しあい、長期休みには旅行に行ったり。時には喧嘩になることもあるけど、なんだかんだ仲直り。
大人になったら、そんな毎日が日常として送れると、友達と楽しい休日を送るものだと思っていた。

ルーティン化した休日を過ごす私の心を掴んだ、月に一度のサウナ

しかし大人になった私の生活は、平日は仕事が終われば、すぐに帰宅。休日は、平日に溜めていた家事を片付けて一人で出かけ、映画を見に行き、帰りにスーパーに寄って、家に帰ったら夕飯を作って適当にTVを見ていると、休日はあっという間に終わっていく。
誰かと会うなんて月に数えるほど。
SNSに溢れる友人たちのキラキラした投稿を眺めては、自分のルーティン化した休日を隠したくなった。

そんな生活の中でも楽しみにしている日がある。
それは月に一度のサウナである。

私がサウナ通いを始めたのは2019年の春頃だった。
偶然見ていたバラエティ番組で、サウナ好きの音楽プロデューサーが芸人たちにサウナの入り方をレクチャーしていた。
『まずは、サウナに6~12分ほど入る。そして次は水風呂に1分間。ポイントは全身一気に浸かる。そうすると、段々と冷たさを感じなくなるらしい。最後は外気浴5分。このルーティーンを3周。そこで手に入れられるのが“整う“という感覚』
私はいつの間にか洗濯物を畳んでいた手を止め、食い入るようにTVを見ていた。
昔からミーハー気質な私の好奇心をぐわっと鷲掴みにしてきた。 
そして、次の日には近所の銭湯に赴いていた。

”整う”を早く体験したくて、自然と足早にサウナに向かう

その近所の銭湯には数回行ったことがあり、サウナがあることは知っていた。しかし追加料金を払い、わざわざサウナに入ることなど考えたこともなかった。
券売機で入浴チケットとサウナチケットを買う。受付でそれを渡すと、サウナでお尻に敷く用のタオルとサウナ室の簡易式の鍵を渡された。
簡単な説明を聞き、女性用の脱衣所に向かう。
早く“整う”を体験したくて自然と早足になった。
体を洗って、さっそくサウナに向かってみる。ドアを開けると、むわんっとした空気が私を覆った。
サウナ内は年配の方が多かった。
とりあえず空いていた1番上の列に座り、TVで放送されていたルーティーンを始めた。
1周目、意外と余裕で6分が過ぎたので、10分に伸ばしてみた。
しかし、その伸ばした4分が、それまでの6分と比べものにならないくらい辛かった。
体の奥底から次々と汗が噴出してくる。自分との我慢比べである。

水風呂、外気浴をするとほわっと全身が脱力。サウナに見事にハマった

やっと10分が経ち、水風呂に向かう。恐る恐る水に足をつけてみる。
冷たいが火照った体にひんやりと心地よい。そのまま奥の方に進みお腹まで浸かってみる。
(冷たい……。肩までは無理……)
と思ったが、それでは“整う”には到達できない。小さく息を吸い込み、一気に肩まで押し込めた。
「ふぁっっっっ」
変な声が出てしまった。
壁の時計を見上げる。1分。
(秒針、進むのが遅いなぁ)
と思っていると、体の感覚が変化していることに気がついた。
(温かい……このまま、いけるかも)
水風呂に3分くらいいた(後に調べたら、あまり水風呂に長く入りすぎてもよくないことが発覚)。
水風呂を堪能し、外に向かう。外気浴にちょうど良さそうなリクライニングチェアが置いてある。タオルを敷いて、寝そべってみる。
頭がほわんっと全身が脱力した。

2周目あたりで、同世代と思わしき女性2人組がサウナに入ってきた。
片方が「彼氏がさぁ…」と恋愛相談を始めた。
(サウナに一緒に来れる友達っていいなぁ)
そんな感じで人間観察をしたり、ぼーっとしていたら3周はあっという間に終わった。
サウナには見事にハマった。

緊急事態宣言発令による引きこもり生活で、サウナは楽しみの一つに

しかし、2020年4月、初めての緊急事態宣言が発令された。
仕事も在宅勤務になり、引きこもり生活が始まった。
券売機に並んでいる間に、受付の人がサウナセットを用意してくれるようになった。
近所の銭湯はいつも通り営業していた。
だが、さすがに感染が怖かったので、空いている時間帯を狙って、在宅勤務で凝り固まった体をほぐしに行った。
以前よりさらに変化がなくなった私の引きこもり生活で楽しみの1つになった。

3回目の緊急事態宣言が発令された。
元々少なかった、友人と会う回数がさらに減少した。
この異常事態が落ち着いたら、数少ない友人を誘ってサウナの良さを布教して回りたいと思う。