不安。
そんなこと思ったことなかったのに。
急にパートナーが女性から男性になっただけで、邪険にしてた生理ちゃんをいつしか待ち焦がれるようになった。

女性のパートナーと決めた「お姫様宣言」をすること

私と生理ちゃんの出会いは中2。
友達に「うんこ漏らしたかと思うよ」と忠告されていたが、案の定下痢を漏らしたのかと思い、母に「うんち漏らしちゃった!」と叫んだのがいい思い出だ。うんち漏らしたなら、そんな場所にシミはできないだろうに。幼かったからか元からか、アホだった。

その日から私と生理ちゃんは二人三脚で人生を歩むことになる。
私の生理ちゃんは腹痛、腰痛、眠気、気だるさ、そして何より不安感が強くなるのが特徴だった。
生理ちゃんは律儀に毎月やって来て、生理前に意味もなく不安にさせ、生理がやってきたら腹痛をもたらし、ちょっとしたら何事もなかったかのようにして去って行った。
なんてお騒がせセレブ。私は生理ちゃんが大っ嫌いだった。

大嫌いな生理ちゃんと2人で歩む人生の途中、私は女性のパートナーが出来た。
生理ちゃんの話題は女友達の中でも滅多にしない。してもナプキン貸してとか、どうしようもない時しか生理ちゃんは話題に上がらなかった。
しかし、パートナーとなれば別だ。

パートナーと夜の営み中。秘部に触れようとするとき、
「ごめん。生理なんだ」
と言われた。
ショックだった。できないことが、ではない。腹痛や倦怠感、不安感を抱えているにも気づかず夜の誘いをし、ギリギリまで気を遣わせ続けた自分に腹が立った。
「そんな時にごめん。つらかったね。気つかわせちゃったね。ごめん。鎮痛剤いる?」
私はこの程度の気遣いしか出来なかった。

私たちは話し合いを経て、生理ちゃんがきたら「お姫様宣言」をすることにした。
お姫様宣言とは生理ちゃんが来たことをちゃんと相手に報告し、報告された側はお姫様のように相手を扱うという2人の約束だ。
お互いに私の生理ちゃんはね、とどんな特徴を持つ生理ちゃんなのか、どんな対処や扱い方をされたいのかなど綿密に話し合った。

お姫様宣言を取り入れた生活は快適だった。
恋人の不安や不調を分かっていたわってあげられるし、前みたいなショッキングなことが起こらない。2人がより2人らしく居られるほんとに良い制度だったと思う。

「子供を作って家庭を築きたい」。私はあなたと居たいだけだったのに

それでも別れの足音は訪れた。
それはやっぱり妊娠のことで、生理ちゃんもその話し合いに同席することになった。
パートナーは言った。
「雀ちゃんと付き合っても続きがない。私思い直した。ちゃんと好きな人と子供を作って家庭を築きたい。だからごめん」
そうだよね。女の子同士じゃ赤ちゃんできないもんね。
その日私には生理ちゃんが訪れていた。
私の体は毎月律儀に赤ちゃんが出来るように神様にプログラミングされてる。私はそんなの要らないのに。あなたとさえ居られればそれで良かったのに。
神様のプログラムに私たちは踊らされて、ひとつの愛の灯火が吹き消えそうになってる。

ひどい。
ひどいよ。
どうして女の子同士でも赤ちゃんできるようにプログラムしてくれなかったの。
そしたら大事な人ともっと一緒にいれたかもしれないのに。生涯を共にすることが出来たかもしれないのに。

生理ちゃんのせいか元からか、そのパートナーとの別れは相当こたえた。そんななか、私のセクシャリティまで知っている古い友人と再会することになる。
私はその古い友人とよく飲むようになって、酔った勢いで前のパートナーとの別れ話がいかに悲しかったか、泣きながらぶちまけてしまった。
「ねぇ。俺たち付き合わない?」
「ずびっ……いいよ」
「いいの。俺、男だよ。女の子じゃないんだよ」
「私は人間が好きなの。性別とか些細なことなの」
私たちは付き合うことになった。

夜の営みもそれなりにすることになった。私は初めて受け身役をやってみて、こんなに疲れるのかと驚いた。
そんななか事件は起こる。

「病気じゃないし、偉そうにしないで」と彼。私はすぐに家を出た

彼のおうちでまったりしてた最中。なんとなく彼の熱っぽい視線に気づく。
「ごめん。今日生理で」
「じゃ、フェラでいいよ」
え?なんて言った?私はお姫様だぞ?
「だから生理って言ってるじゃん」
「だーかーら、口でやってくれればいいって言ってあげてるじゃん」
信じられない。身も心も不調のパートナーに向かって口で性処理をしろ? オナホで済むだろうそんなこと。
私は声を荒らげ、生理が如何に辛くて理不尽か伝えた。彼は面倒くさそうな顔で、
「でも病気じゃないしみんなあることでしょ。偉そうにしないでよ。」
と言った。
醒めた。この人は私が辛い時に自分の性欲を優先する人なんだと思った。

今思えば、きちんと彼氏に生理についての教育をすれば良かったかもしれない。
それでも生理中の私は判断を急いで、そのまま出てってしまった。
財布とスマホしか持ってなかった。半同棲していたから服やコスメはみんな置きっぱなしだ。そして私がその家に帰ることはなかった。
その時の生理ちゃんはちょっと寂しげな顔をしていた。

生理は状態も理解度もその人によるところが大きい。
私は大問題だと思う。もっと学校でタブーとせず、しっかり生理について学ぶべきだと思う。そうすれば女性のパートナーの時みたいに幸せな生理タイムを過ごすことが出来るかもしれないし、男性のパートナーの時みたいなドン引き案件が起きないと思う。

生理ちゃんは厄介だ。
遅れると「妊娠した?」と予期せぬ妊娠に不安になるし、来たらきたでお腹痛いし。
でも私は生理ちゃんと生きていくつもりだ。
夫は私のお姫様宣言を受け入れてくれた。
だったら大丈夫。パートナーと生理ちゃんの認識が一致していればそんなに精神が苦しめられることはない。

生理ちゃんはどんな女性にもやってくる。
その生理ちゃんとの関係が、その女性とパートナーにとって良好なものになりますように。