私は自分の容姿が好きだ。
とても美人という訳ではないが、笑うと目尻に出来るシワや特に矯正はしていないが褒められることの多い歯並び。左右不揃いな目も愛嬌があって好きだ。

自分の容姿が好きなのに、世間の評価はそうではないらしい

しかし、世間からの評価はそうではないらしい。
学生時代、好きな人が出来たので告白した。私が思い焦がれる彼は同じ部活の人間だった。
彼からの返答は「ごめん、部内恋愛は出来ない」の一言だった。
仕方がないと諦めたその日の帰り道、彼が友人と話し込んでいるのを見かけた。あまり良くない事は分かっていたが聞き耳を立ててしまった。
「お前、アイツに告白されたの?勿論断ったよな?」
「あぁ、断ったよ。あの子、顔が可愛くないから」
「確かに、左右非対称でバランス悪い顔してるもんな」
私のことを言っているとすぐに分かった。「自分が可愛くない」という事実を突きつけられたのだ。ここで、私は「自分の容姿が好きだ」という事実が障害となる。容姿の欠点が見い出せないからこそ、どう改善したら良いのかがわからないのだ。
この「自分の顔が可愛くない」という現実と、失恋の悔しさから逃げるように百貨店のデパコスカウンターに立ち寄った。

否定され歪んで見える顔を消したくて、勧められるがまま化粧品を買う

普段はあまり足を踏み入れない百貨店に足を踏み入れたのは、理由がある。
「お探し物があればお声掛けくださいね」
こんな私にも平等に接客してくれるBAさんが居るからだ。私は自分の思いの丈をぶつけた。
「こんな私でも、可愛くなれるアイテムはありますか?好きな人に可愛いって思われたいんです」
BAさんは必死に慰めてくれつつ、「似合う色のアイシャドウがありますよ」と勧めてくれた。私は値段も見ずに勧められたアイシャドウを購入した。

帰宅後、購入したアイシャドウを試そうと鏡の前に立つ。いつも通りの私の顔だ。
しかし、普段は可愛いと思えるその顔も、好きな人に否定された事によって歪んで見えた。先程買ったアイシャドウを試せば歪みは消えるかと思ったが、どうやらそういった訳ではないらしい。

また、やってしまった。
実はデパコスカウンターに涙目で立ち寄り、勢いのまま購入するのはこれが初めてではない。私は自分の容姿を否定されたり、美人と明らかに違う扱いをされてしまう度に化粧品を増やしていたのだ。

化粧品は「可愛くなりたい」という願いの塊で、どんどん増えていった

私にとって化粧品は、「可愛くなりたい」という願いの塊だ。そして、そんな私の化粧ポーチは蓋が閉まらなくなるほどに膨れ上がっていた。まるで「お前の顔は可愛くない、現実を見ろ」と嘲笑っているかのようである。
このままではいつまでたっても可愛くなれない。何か方法を変えねば。そう思い立った私は周囲の美人な友人に「美人の秘訣」を聞いた。
驚く事に、彼女達に化粧品の執着はあまりないようだった。それよりも、毎日楽しいと思える生活をしたり、美味しいものを食べる事を大事にしているらしい。
私は、彼女達を見習って化粧品との距離を置くことにした。パンパンに膨れ上がっていた化粧ポーチの中身の大半を処分した。
容姿を気にせず毎日楽しく過ごせるように、と願いを込めて。