例年より桜が早く開花した今年の春、新入社員たちが入社した。
みんなキラキラした目をしていて未来への希望で満ち溢れていて、一緒にいるとこっちまでパワーを貰える感じがする。
先輩となって新入社員を迎えるのは今年で3回目だが、この時期になると毎年必ず自分の1年目の時のことを思い出す。

入社後、他部署の10歳年上の先輩と付き合ったけど彼は既婚者で…

私は4年前の春、今の会社に入社した。何がきっかけだったのかはもう覚えていないが、すぐに他部署の男の先輩と仲良くなった。
その先輩とは歳は10歳ほど離れていたが、とても後輩思いな人で、一緒にいると先輩・後輩の関係であることを忘れるくらいに居心地が良かった。実家から遠く離れた九州に配属され、人生初の一人暮らしだった私のことを気にかけてくれて、その先輩はよく飲みに誘ってくれた。

仲良くなるまで時間はかからなかった。本当にあっという間に仲良くなって、季節が変わらない春のうちに私たちは付き合い始めた。
しかし付き合った後に知った事実は、彼は既婚者ということだった。10歳も離れているのに、彼に奥さんがいるかどうかを考えなかった自分はバカである。

でも指輪だってしてないし、付き合う前に他の先輩と彼の家に遊びに行った時も完全に一人暮らしの家だった。そういったこともあって、彼が既婚者だなんて1ミリも考えていなかった。

しかし、彼と私の関係は100%不倫でしかなかったのである。常識的な人なら、奥さんがいると分かった時点で距離を置くだろうし、私自身、自分はそういう人間だと思っていた。

大学の友だちが既婚者の人と付き合っていた時は、「好きだから離れられない気持ちも分かるけど、結局不倫なんて誰も幸せにならないんだし早く離れなよ」ってもう少しオブラートに包んで堂々と言っていたし、何なら1つの家庭を壊すような行為をやめられないその子のことをクズとまで思っていた。

しかし、自分の身になれば、その友だちの気持ちが痛いほど分かった。結局、既婚者だと知った後も私は彼から離れられなかった。クズの仲間入りである。

彼の離婚が決まったとき、堂々と幸せを感じられると嬉しくなった

彼が単身赴任であったこと、また夫婦仲が数年前から良くなかったことが私たちの関係を助長した。恋は盲目という言葉を初めて言った人にぜひ会ってみたい。本当に恋は盲目である。

人様の家庭を壊すようなことをしていると自覚しているのにも関わらず、私は彼と一緒にいることですごく幸せを感じていた。もう救いようのないくらいにのめり込んでいた。
どれぐらい救いようがなかったのかというと、「どうしたら彼から離れられるだろう」ではなく、「どうしたら彼と一緒にいれるのだろう」と考える程にである。

そんな関係が続いていくうちに夏が過ぎ、秋がやってきて、そして冬になった。
今でも鮮明に覚えている。九州に大雪が降って、3日間くらい外の景色が真っ白だった時のことである。

彼は奥さんと離婚することが決まったと言った。私たちの関係がバレたわけではない。ただ本当に夫婦でいる意味が分からなくなったそうだ。
離婚は奥さんの方から切り出したらしい。どういう理由であれ、私は嬉しかった。心の中で喜んだ。これで彼との関係を堂々と幸せに感じていいのだと思うと、とてつもなく嬉しかった。

彼の浮気が発覚。裏切りではなく、不倫をした因果応報だと思った

彼との未来を考えてはワクワクして、そんな風に過ごしてバレンタインが近づいてきたある日のことだった。
私は愕然とした。それと同時に悲しみでも怒りでもない、とても言葉では言い表せない感情が込み上げてきた。

彼が浮気していたのである。
頭が真っ白になりながらも証拠をかき集め、彼に問い詰めてみると、そのお相手とは秋から関係があったらしい。何も気づかずにワクワクしていた自分がこの上なく惨めだった。

私は思った、彼に裏切られたと。

でもすぐに、そうではないことに気がついた。
違う、裏切られたのではない。ただ自分のしたことが自分に返ってきただけなのだと。
不倫をしたことへの因果応報。彼の浮気が発覚して私は「恋は盲目状態」から目が覚めて色々なことを考えてみた。

考えてみれば、自分のしていることは正しくないと分かりながらも、目の前の自分の幸せを手放すことができなかった。それは自分の弱さでしかなかった。

結局私は彼と付き合って、彼の「奥さんを裏切る」という行為に参加しただけではなく、自分自身も多くの人を裏切っていたことに気がついた。地元を離れて一人で暮らす私を心配してくれている家族や、私の幸せを心から願ってくれている友だち、そして私が充実した社会人生活を送れるようにとサポートしてくれる会社の人たちのことを。

彼との関係で学んだ「裏切りのうえに幸せなんて成り立たない」こと

彼に裏切られて初めて色々なことに気がつくなんて、やっぱり私はバカである。
3年経った今でも怖くなる時がある。バレンタインが近づくあの日に、彼の裏切りに気づかなかったら今頃わたしはどうなっていたのだろうかと。

脳内お花畑から抜け出せずに、今も沢山の人を裏切り続けていたのかもしれない。そう思うと、彼には裏切ってくれてありがとうと心から伝えたいと思う。

こんなことを、毎年新入社員が入ってくるたびに思い出す。私は自分がしたことを忘れてはいけないのだ。そして、同じく心に刻んでおかなければならない。
裏切りの上に幸せなんて成り立たないということを。