高校生の頃の私は、今の私よりもっともっと未熟だった。この人がいるなら他に誰も要らないと本気で思っていたし、その人がいない未来なんて想像していなかった。私は一生この人といるんだと心から思っていた。

突如現れた、本当に私を愛してくれる唯一の存在。でも正しく愛せず

あの頃の私はとにかく不安定だった。いつも怯えて、いつも悲しんで、いつも絶望していた。彼と2人でいる時だけ、幸せと安らぎを感じていた。
1つ年上で同じ部活動の先輩。きっかけは彼からだった。
「一目惚れした。話すうちに性格もいいと思って、好きになっていった」
今までそんな事を言って貰えたことなんてなかった。
初めての恋人という訳ではなかった。付き合った人は過去にもいたけれど、それは私が惚れたもので相手の愛情が伝わってきたことはなかった。私は沢山のアプローチの末にひとつ上の先輩と付き合った。

私の家庭環境はあまり良くなかった。過保護、過干渉の親をもちながら、人から愛されるという感覚をよく知らなかった。
家では父が手をあげ、母から罵声を浴びせられる。好きなものも自分の性格も能力もやりたいことも何ひとつとして肯定されたことなんてなかったように感じる。
愛される、認められる、その事を学ばなかった私は突如目の前に現れた、本当に私を愛してくれる唯一の存在に盲目になり依存した。

愛される事をよく知らない私は、愛される事に対して恐怖や嫌悪感を感じてそれを避けてしまった。そして正しく愛するという事もできなかった。恋人に好きだと伝えられても素っ気なくしてしまった。こちらから伝えることが苦痛だった、手を繋いだりキスをしたりする事さえできなかった。
目の前の人を好きなはずなのに、暴力を振るう父と重なって恐怖が芽生えた。

付き合う事に責任を感じた。それでも彼の事が好きだった

そんな関係は長くは続かず、喧嘩が絶えない日々になり、1年を待たずして関係は終了した。別れを切り出したのは私だった。
付き合う事に責任を感じた。何もしてあげられない事に責任を感じた。
それでも彼の事が好きだった。そして彼もその時は同じように思ってくれていた。私たちは未熟だった。周りがどんなに止めようと、私たちは互いに盲目で依存しあって生きることが1番幸せだと思っていた。
別れてからも好きだと言って、私がいなければ生きられないと泣き崩れ、弱っていく彼にわたしは一種の喜びと責任を感じていた。この人は私がいなければダメなのだと本気で思っていた。

彼は私の前では誠実だった。少なくとも私には誠実だった。
夜にかかってくる電話に応えれば声に明るさが灯った。私だけがいればいいといつも言ってくれた。私だけでいい。私の事を愛していると。私はその言葉を全て鵜呑みにしていた。
けれど、本当の彼を周囲から伝えられた。正直自分でもわかっていた。話のつじつまが合わないことなんてよくあった。

いつもの様に泣きながら電話をかけてきた彼に聞くと、他の人と関係を持っていた事が判明した。私以外の女性と関係を持ち、その人の他に付き合おうとしてる女性がいることもわかった。
全て信じたくなかった。でもそれは紛れもない真実だった。私だけではなかった。

私は本当に未熟だった。相手を思いやる心なんて持っていなかった

「お前が戻ってくるなら俺はそれだけでいい。こんなことはもうしない。お前がいてくれればそれでいい」。私はその時にはもうこの人を失いたくないと心から思って、彼の傍にずっと居たいと考えていた。
そして彼が私から離れる要因全てに恐怖した。彼の周りにいる女性も、彼と楽しげに話す男性も、彼が私の目から離れる時間も全てが怖かった。
私には魅力がない、彼を満足させる行為すらできない。そんな彼が私に目を向け続けてくれるなんて思えなかった。他の人のところにまた行ってしまうと思った。とにかく彼の視線を私だけに向けて欲しくて、激しい束縛をしてずるずると依存し続けた。

2人はどんどん思考を奪い合い堕ちていった。それは精神的にも身体的にもとても辛く、それでいてとても幸せだった。
1年半後、彼が大学生で私が高校3年生の秋、突然別れを切り出された。「もう限界」。それが全てだった。
縋りついた。居なくなることなんて考えられなかった。あなたが全てだった。私の全てだった。私の世界だった。茶化すことしかできなかった。いつもの喧嘩だと思った。
それでも、悲しそうな声で、「もう終わりなんだよ」と言われた時、無理なんだと悟った。私の気持ちなど伝える暇もなく強制的に終了した恋愛ごっこは、私に5年以上残り続ける傷をつけた。

私は未熟だった。本当に未熟だった。相手を思いやる心なんて持っていなかった。あなたにはあなたの世界があって生活がある事を知らなかった。自分の世界にもあなた以外の居場所がある事を知らなかった。
ごめんなさい。ずっとずっと後悔している。ずっとずっと。あなたにもっと好きだと伝えられたらよかった。あなたにもっとありがとうと伝えられたらよかった。裏切られたとしても信じればよかった。盲目なら盲目なりにあなたを信じればよかった。あなたの自由を奪ってしまってごめんなさい。あなたを信じられなくてごめんなさい。あなたがどんなに私を嫌おうと、悪く言おうと、過去を悪夢だと思おうとかまわない。
もう関わる事はないけれど、ずっとずっと言いたかった。

今まで迷惑ばかりかけてごめんね。いつも一生懸命になってくれてありがとう。本当は世界で1番愛していました。