都会の某ターミナル駅。大勢の人が行き交う中、彼と握手をした。彼が笑顔で言う。
「これでさようならだね」
「うん」
「お互いに幸せになろうね」
「うん、ありがとう、さようなら」

彼氏と7年半付き合った末に別れた。人生で初めて付き合った人だった。
遠距離約5年、半同棲約1年。互いに将来は結婚すると思っていた。人生は想定通りには行かない。

出会いは高校。将来の目標を強く持ち、懸命に勉強をする一方で遊ぶことにも真剣に取り組み、周囲の人からも好かれる彼にわたしはすぐに惹かれた。
わたしも将来の目標があったため、勉強に取り組む中で互いに支え合うようになり、付き合い始めた。

大学受験は一般的な形で言えば彼は成功、わたしは失敗して、彼は都内へ。わたしは浪人をすることになった。
その時から遠距離がスタート。高校時代は受験勉強を優先していたため、1年以上付き合っていたのに遊んだ回数は片手で数える程度、わたしが浪人している最中もほぼ遊ばなかった。
それでもお付き合いは続き、わたしは地元の大学へ進学したため、遠距離は継続。そこから4年間、月1回のペースで彼と会う形での関係を続けた。

ようやく遠距離恋愛に終止符。それなのにコロナで状況は一変

そして、ようやく大学生活が終わり、わたしも就職は都内へ。
すぐに彼に会える距離であるため、それぞれに家を持ち、同棲はしないことにした。
しかし状況は新型コロナウイルスの影響で一変する。
新型コロナウイルスが日本でも流行し始めた昨年の春頃から、彼はリモートワークに切り替わった。どこでも仕事ができる環境となり、わたしの家に転がり込む形で同棲がスタートしてしまった。
一方のわたしは医療職者のため毎日出勤、夜勤もある。さらに同棲をするためでなく、私が1人で住むための家だから1DK。
初社会人、初の一人暮らしという環境が大きく変化した上、自粛の日々で出かけることもできず、彼が24時間同じ空間に居るのはわたしとしてはストレスが大きかったと今になって思う。
やがて時は過ぎ、同棲を始めた年の冬くらいから喧嘩の頻度が増えた。彼は彼で、リモートワークでほぼ自宅に居る上、話し相手は私しかおらず自粛の日々の環境によってストレスが蓄積していたのだろう。
私は私で、今までなら許せていたはずのことが許容しきれなくなりつつあった。自分の価値観や環境の変化によって今まで許容できていた側面に疑問を持ったり、彼に要望を出したりするようになったからかもしれない。

段々と期待することを諦めていき、そして別居へ

何度も話し合い、色々な約束をしても人が変化していくことは容易いことではない。20数年生きてきた癖や習慣を直すということは、自身が強い気持ちを持たねば成立しないことを肌で感じた。互いに互いが変化していくことを期待していたけれど、段々と期待することを諦めていった。
冬の寒さが薄れ、温かな風が心地良くなってきた頃、大きな喧嘩をして別居することになった。一度離れて、冷静な状態で今の関係性について考える時間を持つことになった。

そこから別れるまでの約1ヶ月、私は毎日辛くて悲しかった。
あれだけ喧嘩して“この人と居ても幸せになれない!”と思っていたはずなのに、楽しかった思い出ばかりが蘇る。
付き合う前に寝る間を惜しんでLINEしたこと。初めての電話やデートは緊張して付き合った当初は浮き足立っていたこと。辛い時にいつも側で支えてくれたこと。遠距離で毎月通ったこと。初めての旅行。同棲し始めのワクワクとしたあの気持ち。毎日同じテーブルで100円ショップでわざわざ揃えた食器で食べるご飯、美味しかったな……。
毎日狭いと言いつつ、セミダブルのベッドで寝ていたけれど、1人になった途端急に広く感じた。彼用の歯ブラシや浴室にあるボディタオルが彼を想起させるからすぐに捨てた。やり直せるなら、また買えば良いと思って……。
私が思い描いていた東京での彼との生活はこんなはずじゃなかった。どこで間違ったんだろう、何をすれば良かったんだろうとたくさん考えた。

最後に対面で食事。私の言葉に彼は号泣し始めて……

別居して数週間経過し、別れる日よりも前に、電話で今の気持ちや考えを話し合う機会を設けた。
電話で話した時に彼は別れたいと言った。その理由を聞いて、変な話かもしれないが、わたしは嬉しかった。久しぶりに彼が私のことを考えて話していることが伝わったからだ。
わたしも離れてから考えたことを伝えた。話し合った結果、互いのために別れた方が良いということになったが、最終決定は対面でしたいと思い、最後に2人で食事をすることにした。
当日、近況報告をしながら食事をした。久しぶりに楽しかった。冗談なんかも言い合って。それに彼は“大人”になっていたような気がして、とても優しい。
「本当に良い彼氏じゃなかったよね。幸せにしてあげられなくてごめんね」なんて言って。おいおいおい、今さら優しくしないでくれ。何なんだよもう……。
あまりにも別れる間際の雰囲気とは思えず、わたしがつい「ねえ、本当に私たち別れるの?」と言ってしまった。すると驚いたことに、1度しか泣いた姿を見たことがない彼が号泣し始めた。
想像以上に彼も色々考えて当日を迎えていたのだろう。別れの覚悟を決めてきた彼を困らせるようなことを言って、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

もうこれから桜を見て切なくならないように成長していきたい

対面で話しても結論は変わらなかったが、意味ある別れを選択することができたように思う。必ずそれぞれ幸せになりましょう、そして互いの人生を応援していますと、ポジティブな雰囲気で締め括られた。この人と付き合うことができて良かったと思った。

もう彼を恋愛感情として好きではないが、今でも人として尊敬している。私は元気だから、日々を懸命に生きているから、彼が誰よりも幸せでありますようにと願う。
去年の桜舞う季節に同棲を始め、今年の同じ時期に別れることになった。同じ桜を見ているはずなのに今年は切なく苦い気持ちになった。
私の感情に関係なく時は流れる。時間は私を待ってくれない。もうすぐ梅雨入りだ。
今回の別れをきっかけに桜を見て悲しく切ない気持ちになるのではなく、暖かく晴れやかな気持ちになれるように、自分が少しでも成長した人になれるように日々を過ごしている最中だ。