「大丈夫。一番強い人はね。怒りでマンションからベッド落としちゃったのよ」
私が婦人科で聞いた、最強のパワーワードである。

月経前の気性のコントロールができず、人生初の「産婦人科」に行った

2年前、初めて婦人科に行った。妊娠もしていない。相手もいない。そんなご縁もない。実をいえば、生理はそんなに重くない。

ただ、気持ちが特に追いつかないのは、決まって月経前。気性のコントロールの辛さ、気分の辛さ。
「それってPMSじゃないの?」と看護師の友人からのアドバイスをもとに、初めて婦人科に行った。

非リア充。陰キャ。喪女。そんな単語がわかりやすい己を表す人間からすれば、産婦人科というのはいわゆる自分が行けない人生の成功者が次のステップにいくためのところというイメージがあった。

「うわ~赤ちゃんとか結婚とか、幸せな人がいくところじゃん」とか、不妊治療に対しても「まず相手がいる時点で、話に上がるものだと思うんですが」とネガティブで最高に失礼なことを思ってばかりだった。そのため、今まではどことなく避けていた。

とっくに結婚している友人たちはいいよな。気軽に行けるし。ただ、どうしてもこのこの周期の憤りを抑え解消するために、私は人生で初めて産婦人科に行った。
問診票で「はい、相手いませーん」「はい、したことないでーす」「はい、妊娠ないでーす」「いえーい、ボッチ」と、頭のなかでつらつらと記載していきながら、待合室に座った。

後ろのご夫婦は、見ないことにした。子供が中にいようがいまいが、自分にとって別世界の人間だから視界に入れないようにした。少なくとも、この待合室では私が一番「陰キャだ」と思いながら、眩しくて死んでしまうからとスマホの画面を見つめて、呼ばれるまで待っていた。

「なんとかなりますよ」と言われて、先生の顔を見たら泣いてしまった

女性の先生は、綺麗で穏やかそうな顔をしていた。美人。医者。眩しいと思った。
私は下を向いて、ぼそぼそと生理前で人に当たってしまう傾向や、気分のモヤモヤ、生理周期から気づいたことなどを話した。

先生は、「気づけて来れてよかったですよ」と真顔で言った。きっとこんな患者さんが多いのだろうと思った。次の瞬間、彼女はぽそりと呟いた。
「大丈夫。私がこれまでの聞いた中で一番強い人はね、ダブルベッド、タワマンから突き落としちゃったのよ」と先生はさらっと笑顔で言ってくれた。

「ワォ」正直、これしか言えることがないが、思わず顔をあげてしまった。「それで、ご家族に連れられて、ね」と話してくれた。

タワマンでダブルベッド。このパワーワード。いわゆる、富も名声も、素敵な伴侶もいる、いわゆる人生で充実した女性なのだろう、というか、なのだろう。
きっといろんなものを私よりもいっぱいほぼ確実に持っている人なのだろう。そんな感じだから、きっと美人だろうな。

そんな女性が怒り狂い、暴れ尽くし、タワマンからダブルベッドを突き落とした。どれだけ憤りを、パワーを秘めていたのだろう。そんな人生を充実させておいても、PMSになればタワマンのベランダからベッドを投下しちゃうのだ。

会いもしない、見もしない相手に思いをつい馳せてしまう。というか、そこまで重症だったのか。そして、それにしくしく泣いて、電話越しに家族に八当たりをちょっとして自力で病院に来た私は、まだ軽傷の類なのでは。

「だから、犯罪沙汰になる前に会えてよかった。一人で軽いうちに来れて偉いですよ!よもぎさん!」と先生は言って、にっこりと笑った。
「精神薬もピルも、漢方もありますから。手段はいっぱいあります。なんとかなりますよ」
そう言われて、先生の顔を見たら、なんだか泣いてしまった。PMDD(月経前不快気分障害)だと思っていたが、自分で自覚があったこと、管理がある程度できることから、PMS向けの漢方をもらった。

生理には、人生の「勝ち組」も「負け組」も関係はない!

別に子供を産まなかろうが、伴侶に恵まれなかろうが、運が良かろうが悪かろうが、生理周期はどうもどうもと生理はくる。生理不順に苦しんでいる人もいる。生理の悩みは種類があれど、女性ならば誰しも抱える悩みだ。
人生の勝ち組も負け組も関係はないし、辛かったら病院に行っていい。陽も陰もそこにはない。

喪女だろうと港区女子だろうと、セレブだろうと学生だろうと、ママだろうと女性ならば婦人科は誰だって行っていい。体調に、生理に重い軽いはあるけれど、人生にいろんな格差はあるけれど、それぞれだけれど生理は当然辛い。
物理的に血が出て、腹痛に悩んで。それ以外にも私みたいなPMSだったり、PMDDだったり、多様な悩みがある。
なんというか、まずどうあれど、生理に関してはどうあれど優しくなりたい。そう思った。