医療従事者として働く私。コロナが流行し、多忙な日々が続いた
私たちは、付き合って1年の互いに実家暮らしのカップル。互いに休みの週末に、毎週デートを重ねていた。
大きな病院で、医療従事者として働く私。自動車の営業マンである彼。コロナウイルス流行し始めの頃、私が医療従事者と知る同じマンションの人からは、同じエレベーターにならないようにと、避けられていることを知った。それを知った私は、仕事以外では、人との接触をなるべく断つことにした。
コロナの影響で業務量が増え、毎日残業の日々だった。毎日欠かさなかった、彼との連絡も次第に疎かになっていった。
これじゃ彼の心が離れるかもしれない。そんな思いと、もしも、私のせいで彼がコロナに罹ったら、そう思うとグッと我慢の時期が続いた。
せっかくのデートなのに、疲れ切った状態で当日を迎えると…
そんな生活が続いて数ヶ月、緊急事態宣言が明けたこともあり、週末にデートをすることになった。
やっと会えるという嬉しい気持ちだった。けど、いつもなら念入りにデート前の準備を欠かさなかったが、残業続きで、疲れ切った状態で当日を迎えた。
「久しぶり?元気だった?」
他愛もない会話、そんな時間が、幸せだった。殺伐とした職場の環境から解放されて、久しぶりの安心感に包まれていた。
ドライブをして、ご飯を食べて、明日から仕事だから、早めに帰宅。いつもの流れだった。
デート自体はとても楽しかった。けど、帰り道に差し掛かると、寂しさが押し寄せてきた。
また明日から、あの場所に戻るのか……なんとなく俯いていると、
「なんか、あんまり楽しそうじゃないよね。服もメイクも今までより、なんていうか手抜き。もしかして、忙しいとか言って、会わない間に他のやつと……」
私の中で何かがプツンと切れた。
「そんな事言わないでよ!」
彼の前では、1度も泣いたことがなかった。けど、止めどなく溢れる涙。
「どれだけ我慢してると思ってるの!本当は会いたい!でも病院で働いてるってだけで、避けられるの。もし自分がうつしたらって思って怖いの。
オシャレだってほんとはしたいよ。でも、昨日だって仕事は終わらない。毎日毎日寝る時間もないの。そんな中でどうやって浮気なんてするのよ。
できるのなら、今までみたいにデートしたい、もっといえば、帰ったらいてくれたら頑張れるって思う。でも、家族でもないし、今は耐えるしかないの。
ごめんね。可愛くなくて。泣いたりして、迷惑だよね。もうここでいい」
信号待ちの車から、黙って降りた。
「待てよ」
彼の声は聞こえていた。振り返ることなく、裏道をたどり、家に帰った。
明日からの仕事の準備をしている時に、ふと気がついた。先週仕事頑張れたのは、久しぶりのデートだって思ってたからなんだ。明日からまた、1週間何を楽しみに頑張ろうかな。
そこから1週間、彼から連絡はなかった。
仕事終わり、最寄り駅に彼の車。終電を逃したことすら気づかなかった
そしてまた、緊急事態宣言が発出された。1度週末に電話が鳴っていたが、振られるのが怖くて出れなかった。
時間が過ぎ、緊急事態宣言が解除された頃、「明日どうしても会いたい」とLINEが入っていた。怖かったが、このままではいけないと、「何時になるかわからない。終わったら連絡する」そう返した。
翌日、振られるんだ、そんなことばかり考えながら仕事をした。
週末だったこの日、仕事が全て片付いたのは、23時頃だった。
「遅くなってごめん。遅いから明日にしよう」
そう返して、病院を出た。
最寄りの駅前に着くと、彼の車が止まっていた。
「終電ないよ。どうやって帰るの?」
時計を見ると、23時17分、最終は、23時15分、疲れていて気づかなかった。
「早く乗って」
「ずっと待ってたの?」
「こうでもしないと会えないからね」
そう言って走り出した。
「もちろん、はい。って言うよね」。強気に笑う彼を抱きしめた
いつ振られるのか、そう思っていたが、疲れから眠ってしまった私。
「着いたよ」
見知らぬ場所へ降ろされた。
目の前のアパートに、ガチャと鍵を開けて入る彼。思わず「おじゃまします」そう言って後に続いた。
「誰の家?」
聞いても答えてくれない。
電気をつけると、ベッドと小さな机。他には何もない。そして、彼の方を見ると、ポケットから小さな箱を取り出した、それをパカっと開けて、「家族になれば、気兼ねなく一緒に過ごせるんでしょ、結婚しよ」。
唖然としている私に、箱からキラッと輝く指輪をだし、左手の薬指にはめた彼。ブワッと涙が溢れた私を、ぎゅっと抱きしめた彼。
「誕生日おめでとう。もちろん、はい。って言うよね」
強気に笑っていた。大きくうなづいて、抱きしめ返した。
「そうだった。私今日誕生日だったんだ、忙しくて完全に忘れてた。連絡くれないから、振られると思ってた」
そう言うと、
「ここ借りたり、指輪探したり、色々準備してて忙しかったの。家具とか家電は勝手に決めたら、怒られそうだから、まだ何も買ってないよ」
「会いたいってずっと思ってたんだよ。仕事頑張れるのは、週末のデートが楽しみだったんだって気づいたの。会えなくなってからは、時間がただ、流れていくだけで、何も楽しみがなくて」
「俺も、何であんなこと言ったんだろって後悔してる、頑張って働いてらの知ってるのに。俺がリモートワークできる日は、家事練習して頑張るからさ!」
そう言った。彼は、あの日のデート以来、家族になるための準備を進めていてくれたようだ。
そして、次の日に、両家へ挨拶に行った。
両親は突然のことで驚いていたけど、付き合っていたことを知っていたのと、何より久しぶりに見た私の明るい表情に、結婚を快諾してくれた。
そして、翌週顔合わせを行い、その足で婚姻届を提出した。
まず、あの何もない部屋、生活道具揃えなきゃね。忘れられない誕生日になった。