小さい頃から、まつ毛は長い方だった。
まつ毛を伸ばすマスカラの存在を知ったのは小学生だったはず。
母が洗面所でお化粧をする姿は、どこか他の世界にいるようで、不思議な気持ちで見つめた。

高校に上がると、メイク禁止の校則はあるものの、周りよりも少しオシャレな女の子たちが、透明の液体をまつ毛につけていた。
ナチュラルなのに、どこか皆と違う。それがすっごく素敵に映った。

ぎこちなくて苦手だったメイク。社会人になりメイクが好きになっていた

大学に入って、メイクをやってみた。
何だかぎこちない。
マスカラもつけてみたけれど、つけ過ぎなのか、鏡の中の自分が別人に見えて、変に思えた。
ちょっとだけメイクに苦手意識が湧いた。

社会人になった。
新しい化粧品を買った。
なぜって「お祝いに買ってもらった」という友達がどこか大人びていて、羨ましくなったからだ。

友達と話す時も、化粧品の話が増えた。
特に盛り上がったのは口紅で、新しい色を付けていると、
「え、それどこの~?」
「私も今度みてみよ!」
ってお互いの情報交換が楽しかった。

気づかないうちに、メイクが好きになっていた。
一人で出かけていく時も、自然と化粧品のお店に立ち寄るようになった。
特に今日は買うものがないな~って日も、あの場所にいくことがワクワクするみたい。
本屋さんに並ぶ新刊のタイトルを見ると、最近の人々の思考が何に向いているのかが分かる、と聞いたことがある。
化粧品も同じだ。
今までなら、どれも同じように見えていた商品が、「このブランド好きだな~」とか、「このパッケージ可愛い」とか、一つ一つが違って見えてきた。

自分の中の声と向き合う時間。メイクって、心の変化が現れる

朝、鏡の前に立つ時、今日はどんな感じにしよう。
そう問いかける自分がいる。
この時間が、何だか神聖な時間のように思える。

ベースのアイシャドウに、今日はこの色を加えよう。
マスカラは……。
口紅は……。

10分ほどの間に、こんなにも自分の中の声と向き合う時間があったんだと驚く。
お化粧が終わった私は、周りの人のお化粧にも意識が向くように変わっていた。

「あ、今日のアイシャドウ、キラキラ~。珍しいね!!」
「あ。気づいてくれた!?久々にキラキラにしてみたー」

メイクって、心の変化が現れる。
メイクを通じて、その変化を一緒に楽しめる。
だからこんなにもメイクに引き寄せられるのかな。
少しずつ変化していったメイクへの思い。
これからも、ゆっくりと変化していくのだろうか。
この心のワクワク、大切にしていきたいな。

メイクの虜になった。新しい価値観が広がりこんな自分も面白く思えた

朝、洗面所に立った。
まつ毛に綺麗についたマスカラに、笑顔がこぼれた。
ただそれだけで、一日が楽しく始まりそうな予感がして、外を歩くのも楽しみになった。

次はどんな化粧品に出会えるかな。
どんなパッケージが出るのかな。
メイクをする前から、こんな気持ちになれるなんて、なんて素敵で、不思議なことなんだろう。

すっかりメイクの虜になった私は、かつての私から想像すると、どこか別人のようだけれど、新しい価値観が広がったことで、こんな自分も何だか面白く思えた。

心に語りかけるものって、すごい魔法を持っているのかもしれないって思った。