十年程前に所謂高校デビューをするまで、自分の顔が嫌いで、あまり鏡を見なかった。
度の強いメガネのせいで、もともと大きくない目はさらに小さくなっていたし、具合の悪く見える青ざめたような顔色も好きになれなかった。
苦手な体育を具合が悪いので休みたいと言うと、本当に具合が悪そうだな、と休めるところだけは好きだったけれど。

顔色を良くするため、学校にバレない程度のメイクが毎日の習慣に

高校生になって、コンタクトに変えて、目が小さく見える問題を解決して、すこし自信をつけた私は、自分の顔を鏡でよく見るようになった。そうなると、顔色が悪いことがやっぱり気になって、何とかしてみようという気になった。
ネットで検索して、チークをつけたら良さそうだと思い、ドラッグストアで一番安いやつを買って、雑誌を見て練習した。チークだけ顔につけるのは、肌によくないみたいだったので、化粧下地とチーク、フェイスパウダーをつけるのが、毎日の習慣になった。
メイク禁止の学校だったため、バレない程度に顔色を良くすることをモットーに、顔色を作っていた。
学校に行く前にメイクをするのは、早起きしなきゃいけないし面倒だったけど、だんだん上手くなってきて、楽しい時間でもあった。どんどん鏡を見るのが好きになった。

自分では上手くできているつもりだったけれど、他人からの評価は聞いたことがなかったので、私のメイクは変じゃないかと不安だった。
友達にもなんとなく聞けずにいたが、ある日その出来を知ることになる。

顔色を隠すためのメイクが義務化したら、すっぴんが嫌いになった

寝坊してメイクをしないで学校に行ってしまった日のことだ。
「なんか今日、顔色悪くない? 具合悪いの?」
と、休み時間にクラスの女の子に声をかけられた。
「全然大丈夫だよ」
そう答えて、すごい自然にメイクで顔色を作れてたんだな、と喜ぶ一方で、やっぱり私のすっぴんの顔色って悪いんだなあと、落ち込んでいた。

次の日の朝から、メイクをする前の自分の顔を鏡で見なければいけないのが、やっぱり嫌だなあと思うようになった。
鏡を見るのが好きになれたように思っていたけど、周りから認められているのはメイクをした自分の顔で、私が好きだったのもメイク後の顔を見ることだったのだと気づいてしまった。
楽しんでメイクをしているつもりだったけど、やっぱりこの顔色を隠すためにメイクをしてたのだと思い出した。
心配されないように、メイクをしなきゃいけないな。
メイクをするのが義務のように感じて、すっぴんの自分の顔もどんどん嫌いになっていった。鏡でもあまり見ないようにして、ノーメイクの自分と距離を置いた。

「どっちも可愛い」。スッピンの私も、メイクした私も助けた彼の一言

それからずっとそういう感覚で生きていた。だから、社会人になって、彼氏の家で遊んでいる時、メイクをしていないことに気がついて謝った。
「なんで? すっぴんも可愛いよ」
そう言ってもらって、嬉しかったけど、面倒な私はメイクした顔とすっぴんと、どっちが可愛いか聞いた。
彼は困っていた。
私はメイクした顔が選ばれるだろうなと思いながら、答えを待っていた。前に別の人に同じ質問をした時も、あっさりメイクをした方だと告げられていたからだ。
今日はすっぴんの私も可愛いと言ってもらえたから、選ばれなくても落ち込まなくて良いよ、と心の中ですっぴんの私を慰めておく。
「選べないな。どっちも可愛いし、どっちも君だから」
彼が困って答えた言葉を、十年近く落ち込んでいたすっぴんの私も、メイクを好きだった私も、驚きながらも喜んで聞いていた。どっちも助けてくれたのだ。
すっぴんの私を自分で励ます必要も、メイクを好きな私が自信を失くすこともなかった。たぶん、メイクを始めた日から、どっちの私も認められることを待っていた。
メイクをした私がすっぴんの私を庇うようにして、すっぴんの自分を遠くに閉まっておくようにしてきたけど、やっぱり二人とも自分だから、どっちも一緒に大事にされたかったのだ。

この最高の回答をもらってから、鏡を見るのがまた好きになった。
ノーメイクの私が鏡に現れても、なんの問題もないし、メイクをするのも楽しい。