私は3年前に数か月だけ、悔しい恋愛をしたことがある。
大学4年生の夏、授業の単位も殆ど取り終わり、週3でクラブに出かけ遊びほうけていたある日、彼と出会った。
彼は俗に言う「The・遊び人」でがたいも良く、背も高く、顔も掘りが深くて肌が小麦色にいい感じに焼けていた。見た目からでも分かるモテる人だった。
そんな5歳年上の彼に私は一瞬で惚れ、連絡先を交換して直ぐにホテルへ誘った。私の心はウキウキだった。彼を手に入れたとさえ思ってしまった。
健全デートを数回楽しんで、本気で「そろそろ付き合わない?」と聞いた結果
だが出会ってから3か月経った頃、その日彼から「会おう」とランチに誘われた。
デート当日、何故かその日だけは彼が異様に真面目に見えた。彼の今まで見てきた顔とは全く違う顔、違いすぎて驚いた。
店員を呼ぶのだってやけに緊張して見え、異様に彼は私に気を使って「何食べたい?」と聞いてきたり、「嫌いな食べ物じゃなかった?」と気にしてきた。
今まで私の意見は二の次で、常にデートでは引っ張ってくれていた「イケイケ」の彼は、その日は何故か「なよなよ」して見えたのだ。
最初は何故だろうと疑問もよぎったが、彼もこんな優しいところがあるのか、素敵だなと楽観的に思ってしまった私は、心の片隅にあった疑問を無視した。
その日私は、彼に告白をした。ランチの後の夕暮れ時に川沿いを散歩している中、私は彼にこう告げた。
「そろそろ付き合わない?」
すると、彼は黙った。10分は待った。だが何も言ってこない。私の頭の中は?で一杯だった。
この数か月、彼と遊んだ日々は何だったのかと思い出した。
お昼デート、お散歩デート、3か月の間で5回以上は健全なデートをして、彼も楽しそうだった。
しかもその間に連絡だって毎日のようにしていた。気が合うんだ私達、とさえ思っていた。だが、それは私の思い違いだった。
そこで私はこう問い詰めてしまった。
「何で私じゃダメなの?私と付き合ったら、絶対楽しいもん、外で遊ぶのも好きだけど読書も好きだからアウトドアインドアどっちもいける。
喧嘩はしても寝ればすぐ忘れるから仲直りだって早い。〇〇が仕事忙しい時は会わないようにするよ。我慢できるそれくらい。
しかも私は車の運転だってできるし一人で焼肉屋だって行ける……」
と、まあ、若くて自信しかなかった私は彼にそうやって自己アピールをした。
彼には先約がいて、私はただ元気でそこそこ楽しい女だった
すると彼は、こう答えた。
「俺、実は婚約者がいるんだよね。まあ、破綻しそうなんだけどさ。いつかは言わないとって思ってた」
こんな事実を聞いた瞬間、私は「やっぱり」と悪い予感が的中した気がした。それと同時に、その場から逃げ出したくなった。
彼を全力で好きだった気持ち、そして私自身のプライドが崩れる音が聞こえた。
彼から聞くと交際して2年以上は経つ恋人がいて、婚約中。だがその相手は極度のメンヘラ気質な女で、彼に少しでも浮気している気配を感じたら激高するらしい。
そんな彼女に呆れた彼は次第に疲れ果ててしまい、今は距離を置いて遊びたい時らしかった。
その時彼女は少し鬱気味だったらしく、安静するべく山梨の実家に戻っていたらしい。その間に、私と遊んでいたというわけだ。
「それとさ」と彼は続けた。
「俺やっぱり、お前とは付き合えないわ。お前に俺必要ないよね。この3か月の間で元気のある楽しい子だからそこそこ楽しめたけど、そこまで自信過剰にアピールされちゃあ困るわ。俺はやっぱり俺を必要としている女のところに戻るわ。お前には俺なんかよりもっと良い男いるから。絶対。」
色々とツッコみたくなった。
まず、「そこそこ」楽しめたとはなんだ。私は全力で楽しんでいたのに。
後、「お前には俺なんかよりもっといい男いるから」……いや、「あなた」が良いのです。だから告白しているのです!
こんな事は彼に言い返せはしなかったけど、このツッコみこそが私の本心だった。
彼との最初の出会いがクラブで、尚且つ出会った初日にヤッテしまい、その時点で私は彼から逃げれば良かった。
だけど会う度に彼は私に本気なのかも、と考えてしまい、ハマってしまった。毎回のデートで私を楽しませてくれた彼に本気で恋に落ちてしまった。
考えてみれば、彼はたまに連絡を二、三日空ける事があった。それも決まって土日。その間は婚約中の彼女に呼び出され、会いに行っていたらしい。
その時点で気付けばよかった。だが私は彼の「会社の上司と接待で忙しかった」。この一言を鵜呑みにしてしまった。
彼に裏切られたと思ってしまってはそれまでだが、どんなに好きな相手でも、落とせない男は落とせないのだと知った。
ちゃんと相手の過去や現状を分からないと、大好きな相手を手に入れる事は出来ない。
恋に盲目にならず、これからはしっかりと相手を見て相手を知る努力をしなければと思う。
そんな彼からつい数日前結婚をしたと連絡が入った。相手の名前は皮肉にも私と同じ名前の女性だった。
初めて自分の名前を嫌ってしまった。それと同時に彼も嫌いになれば良いのにと思いつつ、今もたまに彼の姿を思い出してしまう。
どうやら私は、やっぱり彼に本気だったらしい。