コロナが日本で流行りはじめる少し前、大学4年生だった私には好きな人がいた。
アルバイト先の同期の男子。まともに人を好きになってこなかった私が、初めて本気で好きになった人だった。

他の女子が彼のことを好きと聞くまで、気づかなかった彼への気持ち

大学1年生でカフェでのバイトを始めてほどなくして、彼に彼女ができたと知ったときは、へぇ、という感想だった。
彼はイケメンではない。アクティブで、ちょっと頭が良さそうで、あんまり自己顕示欲は強そうじゃない、大教室での授業でよく見かけるような、そんな雰囲気をもった人だった。

周りのことによく気づく。いつも安定している。他人を非難しない。聞き上手。よく喋るわけではないのに、みんなの中心にいる。
彼のことを嫌いな人はいなかったし、ほかの男子たちからは「あいつは女子みんなが一回は通るよね」と言われていた。

彼が彼女と別れたのは私が4年生のときで、内定式も終わり、まもなく年が明けるという時期だった。
ある女子が彼のことを好きだと言っているのを聞いたのも、その頃だった。
「とられたくない」
はじめてそんな感情を抱いた。自分の気持ちに気づくには充分だった。

仲良くなり次の会う約束もしていたのに、コロナの影響で約束は流れた

それからみんなで飲んだり、卒業した先輩を交えて会ったり、彼とたくさん顔を合わせた。
私から誘って、二人で飲みにも行った。自分から誘ったのは初めてだった。
誘ってOKされて、母に報告して家ですごくはしゃいだ。嬉しかった。
そしてなんとなく私たちは、二人でご飯に行った日のことをバイトの誰にも話さなかった。
後日、バイト先のバックヤードで彼と二人だけになったとき、なんとも言えない沈黙が訪れた。そのとき、二人で会った日の話の続きを始めてくれたのは彼だった。秘密の話に、胸が高鳴った。

確実に彼と仲良くなっていくのを感じていた。彼に話していると家族に話しているような気持ちになり、自然といろいろな話が口をついて出てしまった。相手もまた、普段みんながいたら話せないような話をいつもしてくれた。
なんだかんだ、2月から3月にかけては3日に1度くらいのペースで彼と会っていた。
その間に約束もした。4月にまたご飯行こうね、と。
コロナが思ったよりひどくなってきたのはその頃だった。

やがてバイトを卒業し、私たちは社会人になった。ほどなくして、一度目の緊急事態宣言が発令された。
4月に彼と会う約束は流れた。
いつになったら会えるんだろう。どうすればいいんだろう。心臓がギュッと縮むような感覚だった。
彼とはたまに連絡をとって、しばらくやりとりをした。彼からのメッセージを読みながら、人を好きになるってこういうことなんだとかみしめていた。

1年ぶりの再会。恋する時間の寿命を感じたけど、まだ彼のことが好き

それからあっという間に1年がたった。後輩の卒業祝いに行ったバイト先で、久しぶりに彼に再会した。
社会人になった彼は、ちょっと雰囲気が大人びていた。私たちの間の空気はちょっとぎこちなかった。ああ私は彼のことがまだ好きなんだと、じんじんしびれるように感じた。
けれどそのとき、多分そろそろ、もうやめたほうがいいのだろうと、漠然と思った。恋愛になる前の、あの恋する時間の寿命がきたような気がした。
でも私は、すっぱり彼を忘れられるほどあっさりした女ではない。多分、新しく好きな人ができるまでは、私は彼のことを好きだ。

コロナがなかったとしても、恋愛経験の未熟な私の恋がうまくいったとはあまり思えない。
それでも考えてしまう。コロナがなかったらどうなっていたのだろう。もしかして、彼に好きだと言えたのだろうか。
コロナのせいで終わったとは思いたくないし、まだ私の中では終われない。そして、次会うときには彼を囲むただの景色の一部として存在できるのかというと、そんな自信もない。
終わりにしなきゃいけないときがいつかきたら、自分で終わらせる。そう心に決めている。