一年前、私はけじめをつけようと三年間ずっと曖昧な関係だった彼にこう言った。
「ねえ、遊びなの? それなら私もそのスタンスで行くから」
すると彼は、「そんな事言われたの初めてだわ。俺、お前の事気になりだしたかも」と答えた。

彼は所謂「リアコ」的な存在。何よりも彼の「優しさ」に恋をした

彼とはマッチングアプリで出会った。彼氏がずっといなかった私はそろそろ彼氏が欲しいと思いアプリを始めた。私は彼とマッチングした二週間後には彼の家で初めて会った。
最初は遊びでも良いと思っていた。だからこそ、最初のデート場所なんてどこでも良いと思っていた。だが、一目見た時から私は彼に一目惚れしてしまった。
彼は私にとって所謂「リアコ」(ガチで恋してる、の略) 的な存在だった。背も高く細マッチョで、つり目気味の奥二重が魅力的で、何よりも彼の「優しさ」に恋をしてしまった。
初めて会った当日に体の関係を持ってしまった私たちは、ずるずると長い期間体だけの関係であった。連絡頻度だって一週間に一度くらいだし、会う頻度だって一か月に一回会っている期間もあれば、半年会わない期間だってあった。
彼から女の話は聞かないし、何よりも彼は仕事に追われて毎日忙しそうだった。だからこんな関係でも仕方ないと私は自分に言い聞かせていた。

彼が急にいなくなってしまいそうで、とても怖かった。会う度に泣いた

会う約束を始めるのは、決まって私から。彼から「いつ空いてる?」と聞かれた事もない。「どこで会う?」、「何をする?」とか彼からの質問は無し。全て私が彼と会いたい時に会いたい場所でしたい事をする。
たとえデートのような事でも彼は否定せず楽しそうに付き合ってくれる。
横断歩道を渡るときだって、いつも手を繋いでくれるし、重いものも持ってくれる。
飲みに行った時にはたまに奢ってくれたり、ホテル代だっていつも彼が払ってくれた。
私はそれが彼からの「優しさ」なのだと考えていた。私にとってそれは、「彼からの優しさ」。彼にとっての……何物でもなかったのだと思う。私は会ってくれるだけでも幸せなのだ。そう思い込みたかったのかもしれない。

ただいつも彼と会った後、心の中に「不安」が残る。
次いつ彼と会えるかな、彼は今日も「好き」とは言ってくれなかったな、彼が急にいなくなってしまいそうで、とても怖かった。
気づいたら、彼と会う度に私は泣いていた。勿論彼に気付かれない場所で。

私はそんな曖昧な関係に終止符を打ちたくて、「本気か本気じゃないのか、はっきりさせて。遊びだったら私も遊びだって割り切るから」こう彼に言い放った。それで彼は「そんな事言う人初めて。俺、お前の事気になりだしたかも」と返事をした。
私はこの言葉を聞いて、「じゃあ今までは何で会ってくれたんだよ!」怒鳴りたかった。今まではあくまでも「セフレ」としてしか会ってくれなかったのだとこの時初めて痛感した。だったら、せめて一度でいいから、彼から私にセフレに対する言葉らしく「会おうよ、いつ空いてる?」とかいきなり聞いてきて欲しかった。それだったら、私だってセフレなのだって毎回実感出来ていたのに。

早く逃げ出したくて、立ち去った。彼を忘れようと努力していたら…

この一件があっても、彼は一向に私に「じゃあ付き合おう」とは言ってくれなかった。
いつものように私から映画に誘ったある日、痺れを切らした私が映画後に、「私たち、もう付き合ってもいいんじゃない?」彼に伝えた。すると彼は長い沈黙の後、
「そうだよね、俺、勘違いさせるようなこと、沢山したよな……。なんか、ごめん。これからも……」
こう答えた瞬間、私は席を立ち逃げ去った。
やっぱり私は「セフレ」だったのだ。彼にとって私は遊び。ただ彼は優しいからか、受け身だからか、めんどくさいからか、私にその事実を分かりやすく伝えてはくれなかった。
私はただ、彼からの偽りの優しさに恋をしていただけなのだ。この現状から早く逃げ出したくて、彼にサヨナラも言わずにその場を立ち去った。
私は彼とのラインのトーク履歴を消し、忘れようと努力した。新しくアプリを始めても、アプリの中の男性達に中々イイネを押すことが出来ずにいた。彼を忘れようと努力していた日々も数週間経ち、彼からいきなり連絡が来た。
「久々に会おうよ、近々空いている日ある?」
彼は初めて私に「会おうよ」と言ってくれた。けれど私は、これっぽっちも嬉しくなかった。リアコだった彼から会おうと言ってくれたのにも関わらず、私は彼からの連絡を無視した。
このままでは、前に進めないと思ったから。
前に進まないと、また私は彼からの偽りの優しさに泣いてしまうと思ったから。