私は化粧が好きだ。
かわいい化粧品を手に取るときも、化粧をするときも、化粧をした自分の顔も、全部好きだ。
しかし、残念ながらとびっきりの美人ではない。化粧の知識も豊富でないし、別人に変える技術もない。
だけど、私は化粧が好きだ。
そして、その気持ちは人と比べることなく口に出していい。好きなだけで素晴らしい。
小さな時から化粧品が好きだったのに、その気持ちを大切にすることに長い時間がかかった。

化粧品の話に混ざりたい私を臆病にする、彼女たちの棘のような視線

小学生から青春時代は全てバスケに費やしていた。10年間、毎日必死にボールを追いかけた。
そのエネルギーを今度は大学受験へシフトし、なんとか歴史ある女子大に入学できた。
さすが女子の園、色とりどりの花のようにかわいい子がたくさんいた。
私がバスケに10年も費やしていたように、「可愛い」に多くの時間を費やしていたかのような、磨き上げた花のような子、立っているだけで誰もが目を引く天性の可愛さをもつ花の子、本当に様々なお花がいた。
そして花の数だけ棘もあった。

私は当時太っていた。化粧もファッションも垢ぬけておらず、容姿に自信がなかった。それでも友達に恵まれ、大学生活はとても楽しかった。
だけど、時々棘のような視線を向けられていた。
頭からつま先まで、一瞬で見た目を全否定するような目線だった。私の思い過ごしかもしれない。だけど棘を向けたあの子は、「花」のようなかわいい子には満面の笑みで挨拶を交わす。満開のお花が向き合っているかのように、そして思い過ごしを「大正解」と言っているかのように。

彼女たちは化粧品の話をしていた。あのブランドのアイシャドウ、雑誌に載ってた下地、新色のリップ……。
本当は私も混ざりたかった。だけど、私が「化粧が好き」と言っても彼女たちは棘を剥き出すだろう。「容姿が劣っているお前が好き?この会話についていける?ふざけるな」と背中で言われてる気がした。
普段は豪快な性格の私も、時々刺さる棘の視線から、容姿に関してはとても臆病になっていた。それでも化粧は好きだった。

社会人一年目、誰の目を気にせず、ただただ化粧に夢中になった

大学を卒業し、社会人になった。
環境が変わり、棘のような視線をむけられることは各段に減った。
自分で稼いだお金で、気づけば化粧品を沢山買っていた。コンビニでお菓子を買うなら、薬局で数百円のアイシャドウを買いたい。新色のリップを試したい。新卒だというのに頭の中は化粧品のことばかりで、誰の目も気にせずただただ夢中になっていた。

そんな中私は友人と、あるアーティストのライブに行った。私は好きになったばかりで初めてのライブだったが、友人は古くからのファンでとても詳しかった。好きになったと言うと彼女はとても喜んでくれ、一気に距離が縮まった。
彼女は化粧には全く興味がなく、いつもすっぴんでいる。しかしアーティストの話をしているとき、いつも以上に可愛くなる。何も塗ってない、色もラメもついてないのに、キラキラした目と笑顔が本当に可愛くて、熱く語る彼女が今も大好きだ。
ふと思う。
どうしてアーティストのことは好きと気軽に言えるのに、化粧のことになると臆病になってしまうのだろう。

ライブ会場には沢山の人がいた。
性別、年齢、見た目…当たり前だけど多種多様だ。
唯一「アーティストが好き」という気持ちだけで数万人が集まり一体化していた。
当たり前だけど、不思議だった。
アーティストのファンでも、デビュー当時からのファンもいれば、今日ファンになった人もいる。だけど「好き」に変わりはない。アーティストへの知識の差に負い目を感じることもない。ただ、「好き」なだけでこんなに楽しいライブになるのだ。
本当に楽しかった。

夢中になることはこんなにも楽しく、ただ「好き」なだけで素晴らしい

化粧だって同じだ。容姿がどうであれ、知識も技術もどうであれ、好きならそれでいい。それだけでいいのだ。
どうしてそれに気づかなかったんだろう。
大学生活で少し偏った思考は、社会に出てゆっくりと更生された。
化粧にしろ、アーティストにしろ、夢中になることはこんなにも楽しいということを改めて知ったからだ。

社会人6年目になった今も変わらず、化粧が大好きだ。
このアイシャドウを塗ったら友達に褒められた。このリップは恋人に可愛いと言われた。この下地は忙しい日でも1日崩れなかった。思い入れの曲があるように、思い入れの化粧品が沢山ある。
大学の時から容姿は劇的な変化はしていない。それでも私は堂々と「化粧が好き」と口に出せる。私自身が、この気持ちに誇りを持っているからだ。
誰も邪険に扱ってはいけない。もちろん私自身も。

何かを「好き」という気持ちの力は偉大だ。
ただ好きでいい、それだけでいい。
1人で追及するのも、誰かと共有するのも、何も行動しないのもいい。
あなたのペースで好きなように、「好き」に夢中になればいい。
とても簡単なことだけど、難しく感じてしまう時もあると思う。
大丈夫、きっとあなただけじゃない。
「好き」と、自分を比べないで。
ただ「好き」なだけで、素晴らしいことだから。

今日もお気に入りのリップを塗って、私は大切な人に会いに行く。
いつもありがとう。これからもよろしくね。
可愛くて心強い味方を、そっと鞄に忍ばせながら。