「美形」といってぱっと思い浮かぶのはどのような顔だろうか。
ぱっちり二重まぶたに通った鼻筋、シャープなフェイスライン……恐らく世間一般的にはこのような条件が必須なのではないだろうか。
実際に私も、二重まぶたが「美形」の条件であることを疑ったことすらなかった、「BTS」に魅了されるまでは。

一重まぶたは「残念」とみなす世間や友人に、何とも言えない気持ち

一重まぶたの私は、友人から「平安美人」「アーモンドアイで外国人にモテそう」などと言われることが多い。恐らく彼女たちに悪気はなく、純粋に褒め言葉として言ってくれたのだろう。
ただ言葉を裏返せば、「現代の日本ではウケない顔だ」と言われているように感じてまうのであった。
元カレに「〇〇(私の名前)が二重だったらなぁ(笑)」と言われたこともある。その時は平気なフリをして「彼の好みの顔じゃないだけや!」と自分に言い聞かせていたが、別れたあとにも度々その言葉が頭をよぎっては自信を失っていった。
さらに追い打ちをかけるように、Instagramには「二重にするマッサージ」といった投稿や「二重にする美容液」といった広告などが溢れている。
自分としては個性として受け入れていたはずの一重まぶたが、世間的にはまだまだ「残念」とみなされているのだろうかと思うと、何ともいえない気持ちになった。

BTSは「一重でこんなに魅力的な人たちがいる」と、常識を覆した

私が「BTS」に出会ったのは、2020年の秋のことだ。例の元カレに「やっぱり顔がタイプではなかった」と振られた直後のことだった。
初めて彼らの顔写真を見たときの衝撃は忘れられない。「一重でこんなに魅力的な人たちがいるのか」と23年間信じ続けていた常識が覆された瞬間だったからだ。
2020年から2021年にかけて、韓国のボーイズグループ「BTS」が世界に「Dynamite」旋風を巻き起こしたことは記憶に新しい。「Dynamite」は知っていてもメンバーの顔と名前までは知らないという方が多いかもしれないが、実は「BTS」のメンバー7人のうち、5人が魅力的な一重まぶたを持っている。
「BTS」のメンバーに憧れてからというもの、どのようなメイクが一重の魅力を引き出しているのだろうかということにも興味をもち、ステージ上の彼らのメイクにも注目するようになっていった。
今まで日本の女性誌等で紹介されていたのは、一重でも二重のように目の縦幅を長く見せる類のメイクだった。
一方で、「BTS」の一重メイクは、目尻の三角ラインにかけてアイシャドウを入れて切れ長の目を際立たせたり、あえてまつ毛を上げずに目に影がかかることでセクシーな印象を与えたり……というものだった。それまで目を大きく見せることに躍起になっていた私にとって、彼らのメイクはとても新鮮であった。
容姿を理由に彼氏に振られて失意の底にいた私であったが、「BTS」に出会ってからというもの、日々自分の魅力を引き立たせる一重メイクを研究して、堂々と振舞えるようになっていった。

世界中を魅了し、「美」の価値観を多様化した、BTSの大きな功績

日本の若い女性が韓国の男性アーティストからメイクを学ぶ日が来るとは思いもしなかったが、このように性別に関係なくメイクを楽しめる時代に生まれてよかったとしみじみと感じている。
「BTS」に対する世界的な反応も興味深いものだ。
従来、世界的に活躍するアジア系のモデルさんなどには「エキゾチック」「ミステリアス」「アジアンビューティー」などという評価がなされることが多かったのではないだろうか。
では、今回の「BTS」旋風の場合はどうだろうか。
世界のメディアやYou Tubeのコメント欄を見るかぎり、「全員のビジュアルが最強」「worldwide handsome」といったように、彼らが作り出した「美」を純粋に賞賛するリアクションが多いと感じる。
「BTS」がヒップホップグループだからということもあるだろうが、従来のような「アジア性」を強調するような声はあまり見かけない。現に、ぱっちり二重信仰が強かった日本でも、今では男女問わず「BTS」は憧れの存在である。
2021年も更なる躍進を遂げる「BTS」。彼らが達成した快挙は枚挙にいとまがないが、世界中の人々を魅了し「美」の価値観を多様化したことも、とても大きな功績ではないだろうか。
これがただの流行に留まらずに、「美」に絶対的な条件などなく、多様な「美」を楽しもうという風潮が社会に浸透していくことを切に願う。