「ほら行くよーーーーーー!!」
弾けるような眩しい笑顔、滴る汗、まっすぐ届く歌声。
こんなに可愛い人がこの世にいるのかと雷で打たれたような気持ちがした。
5年ほど前、渋谷の小さなライブハウス。
友達の付き添いで行った全く興味のないバンドのライブだった。
懸命に歌う姿があまりにも綺麗で。はっきり言って一目惚れだった。
それから曲も聞き漁り、あれよあれよと沼に落ち思いっきりハマってしまった。

小さい界隈だ、何回かライブ会場に行くとファンも見たことのある人が多く、全体として顔見知りのような雰囲気になってくる。

容姿でファンになった私と、容姿で判断されることを嫌う私という矛盾

ある日、同じバンドのファンのツイッターでの呟きを見つけてしまった。
「ブスは現場に来ないでほしい、推しに自分の顔見られて恥ずかしくないの?」
ドキッとした。心臓がギュッと掴まれたような感じがする。
もちろん私のこととは限らない。でも私は今までの人生でたくさんブスと言われてきた。だからこの呟きを無関係のこととして捉えることは出来なかった。

どうしよう、私はずっと大好きな推しに不愉快な思いをさせていたのだろうか?
不安で不安でたまらなくなった。
その日から少しでも可愛くなろうとダイエットも化粧も洋服も研究してたくさん努力をした。

一ヶ月後、鏡を見て驚いた。それでも私は全然可愛くなかった。
当たり前だ、化粧も洋服もすごい力はあっても魔法ではない。
そしたら何だか一周回って、そもそも容姿で色々言ってくる方がおかしいことにようやく気づいた。

人の顔という簡単には変えられない要素をごちゃごちゃ言ってくる方がおかしいのだ。容姿で色々と判断されるのは間違っている! そう強く思った。
しかし、ここではたと気づいてしまった。
私が彼女を好きになったきっかけは、顔だった。
もちろん、顔だけじゃない、でも顔が間違いなくきっかけであった。

容姿で判断されることを嫌う私が、容姿で人を好きになった。
それって矛盾じゃないのだろうか。
結局私は容姿で判断されることは嫌いだけど、容姿で人を判断しているのではないだろうか?

「世の中可愛くないとダメなのかな」彼女に思わず送ってしまった本音

それから私は何となく容姿に言及することを避けるようになった。
いつだって彼女はベリーキュートだし、最近変えたメイクも似合っているけど、そういったことはファンレターにも一切書かなくなった。
「この曲が好きだったな」とか音楽の話だけを書いた。

そんな時、定期的にやっている彼女の配信でも容姿の話になった。
きっかけは些細なことだ。
「ちょっと太った?」
そんなコメントが配信に流れた。

「えーやっぱわかる? 太ったんだよねえ、痩せなきゃなあ」

「痩せなくてもいいよ」
「気にしなくていいよ」
次はそんなコメントで溢れた。

「いやそりゃあ気にするよ。人前に出る仕事だし。痩せてた方がいいじゃん。可愛いに越したことはないじゃん。そのためにダイエットもメイクも頑張っているよ。可愛くて損ってことはないと思うもん。きっと可愛い方がチャンスも掴めるじゃん。」

そう言った。
音楽を聴いてもらうためなら、何だってしてやる。そんな気概が画面越しでも感じられるくらいきっぱりと言った。
そういう強かな彼女が大好きだった。
それでも私は可愛くなくてもいいよと嘘でも言ってしまいたくなる。
可愛いから好きになったのに。

「やっぱり世の中可愛くないとダメなのかな」
思わずぽろっと本音が溢れ落ちた。
送るか迷ったが匿名だと思いつい送信ボタンを押した。
偶然彼女がそのコメントを拾った。

私のモヤモヤを溶かした、彼女の「可愛い」に対する考え方

「違うよ、ダメってことじゃないよ。私が言いたいのは可愛いって歌が上手いとか、良い歌詞を書くとかそういうのと同じで一つの要素みたいなものじゃないかなってこと。
歌が下手だったら、上手くなろうとして努力するじゃん。
そういう基準の一つとして、可愛いってあってもいいんじゃないかな。わざわざブスとか言ってくる人は頭おかしいけどさ。
可愛いって基準がどこかにあるから、それに向かって努力するわけでしょ?
何かの目標になっているってことじゃん。きっとそれって素敵なことだよ」

彼女が大切そうに紡ぐ一言一言が胸にしみた。
可愛くありたいと思う自分がいて、可愛いあなたが好きだと思う自分がいて、それでもいいのかなと思えた。
ずっと心の奥底にあったモヤモヤがゆっくりゆっくり溶けていく。
可愛いことは罪じゃない、可愛い容姿というのはこの世に存在するし、やっぱり可愛い人が好きだ。
推しのために少しでも可愛くありたい自分も間違っていない。

やっぱりあなたは最高に可愛い。
そして私はそういう可愛さにどうしようもなく惹かれている。

私は可愛いにがんじがらめだけど、それでもいいのかなと思った。
これからはファンレターであなたの可愛いところが好きだとちゃんと書くね、と心の中で彼女に言った。