「ひさしぶり」
自粛生活に退屈していた私に、久しぶりに連絡がきた。インターンの同期からだ。
コロナ禍でなんとなく連絡を取る人も限定されてきていた私は、新鮮味を覚えながら、
「ひさしぶり」
と返信した。
コロナでビザがおりなかった彼。不謹慎ながらも願ってしまったこと
「いま、中国にいるの?」
そう。彼は中国の大学院に進学したのだった。たまたま帰国しているのだろうか。
「いや、日本にいるよ。コロナで留学ビザが下りなくてね」
運悪く、コロナの影響でまだビザが下りずに、日本からオンライン授業を受けているのだという。
同じ大学院生という立場もあり、久しぶりに話が弾んだ。
研究の話、懐かしいインターンの話、共通の友達の話。ブランクを埋めるようにメッセージのやりとりは弾み、いつしか、毎日の彼とのメッセージが楽しみになっていた。
「コロナが終息したら中国に行くの?」
「そうだね、コロナがおさまってビザが下りたら行くよ」
弾むメッセージとは裏腹に、遠距離恋愛になるかもしれない、という恐怖はいつも私の気持ちにブレーキをかけた。
不謹慎だけど、コロナが終息してほしくない、と心のどこかで願う自分がいた。
私の願いが通じたのか、年末年始を境にコロナの勢いは増し、1月7日には首都圏1都3県に緊急事態宣言が発令された。彼に会うことはできなかったが、同じ国内にいるというだけで心がときめいた。
緊急事態宣言解除でデートの約束。やっぱり彼のことが好きだ
「会いたいけど、会えないね」
「会えないから電話しよう」
会えないことを口実に電話で話すことも増えた。話すたび、彼に惹かれていく自分に気づかないふりをした。
そしてやりとりが始まって数カ月。
緊急事態宣言が解除されると同時に、私の誕生日が近づいていた。
「会おうよ」
「いいよ」
コロナのせいで寂しかったからメッセージが続いたのかもしれない。もし付き合えても遠距離恋愛になるかもしれない。そんなブレーキをかけたままの心で、デートの約束をした。
デート当日。
「お誕生日おめでとう。お店、営業時間短縮で閉まってて、プレゼント買えなくてごめんね」
そう言って、マスク越しに恥ずかしそうに笑う彼を見て思った。
ああ。彼が好きだ。遠距離になったって、どうだって。
コロナがなかったら再会できなかった相手。今はまだ隣にいさせて…
そもそも、コロナがなかったら、おそらく再会することもなかった相手だった。
だったら、会えない未来を想像して怯えるよりも、少しでも会える今を彼と過ごしたい。
そう認めると、楽になれた。
遠距離になることを覚悟して付き合い始めた私たちだけど、彼は今も日本にいる。
結局彼はオンライン授業のまま、丸一年を終えてしまった。
「コロナがなかったら、中国に行ってたんだよね」
「そうしたら会うこともなかったかも」
「連絡も取らなかったかもしれないね」
そんな風に話している。
コロナのせいで奪われたもの、できなくなったことがたくさんあった。
その代わりに、コロナのおかげで生まれた恋もあった。
今はもう、コロナが終息しないでなんて願わない。
会えなくても思いを紡ぐことができることがわかったから。
いつ遠距離になるか分からないけど、今はまだ、隣にいさせて。