タイムリープものの映画が好きだ。物語のなかでタイムリープする登場人物に憧れがある。私も時をかけたいし、誰か私のために時をかけてもらいたい。そう思いながら映画をみる。
とくにこれといって、自分の身に危険を冒してまで変えたい過去も叶えたい未来もあるわけではない。ただ、なんだかかっこいいから。そんな理由でタイムリープをしてみたい。
特別な力を手に入れてタイムリープしてみたい。だから私は映画を観た
過去にいって、付き合う前の父と母に「未来から来たあなたたちの娘です」と言ってみたいし、未来に飛んで、いつか出逢うはずの彼に「私をよろしくね」とも言いたい。
あぁ、なにか特別な力を手に入れてタイムリープしたい。
というわけで、平日、レディースデイにタイムリープものの映画をみにきた。
映画がはじまってしばらく経ち、スラっとした男性が少し遅れて申し訳なさそうな様子で私の3つ隣の席に座る。真っ暗闇の中、かすかな誘導灯の光によって見え隠れする素顔は、間違いなく美しいのだ。
気になりつつ、映画の世界にさらわれていく私は、彼の存在を忘れ、ハッピーエンドに安堵し、エンドロールを見送る。
劇場内に灯りがつき、数人しかいない観客一同と気持ちを共有し合ったかのような瞬間を味わったあと、3つ隣の彼が立ち上がった。爽やかさの粒子を振りまくようにマスクを外した。そして私に言う。
「未来から君をなぐさめにきた」
なんてことは起きなかった。
未来の彼へ。ここに私の心のタイムカプセルを置いておきます
平日の真昼間に、恋人同士で観に行くような映画を1人で観に行く私。何かに落ち込んでいないわけがないのだ。だから、数年後の私から「この時期落ち込んでたんだよ」と聞きつけた素敵な彼が、「それは僕の出番だ」と、いつ私をなぐさめにきてもいいように、一番後ろの人のいない席をとった。のに。
未来の彼どころか、ナンパ男さえ現れない。世知辛い世の中である。
仕方がないので、ここに私の心のタイムカプセルを置いておきます。未来の彼、読むんだぞ。
映画館で待ってたのに、どうして来てくれなかったの?いろんな話をきいてほしかったのにさ。
そうだ、私のことより、あなたはどうですか?苦しいことはありませんか?心身に影響を与える悩みを抱えてはいませんか?聞くことしかできなくてごめんよ。行ってあげられなくてごめん。だけどあなたもこないので、お互いさまで。
だけどもし今どうしようもなく立ち上がれなくて、明けそうにない夜に襲われているとしたらと考えるとやっぱり心苦しいです。毎日一生懸命生きながらも漠然とした不安を抱えているって場合も同じです。
これで私の作戦は大成功。憧れの時をかける少女になれた私
きっと私は、「なんで呼んでくれなかったの」とあなたに言うでしょう。そのときは笑ってね。もしあなたが毎日充実した日々を送っているというのならば、それはとても素敵なことです。
どっちにしても出逢えたときには私の好きなハーブティーをふるまうよ。乾燥しかけた過去の悲しみとか苦しさを、ハーブと一緒にティーポットに入れて、今となってはいい香りやいい味が出ているんだって少しでも思ってくれたらいいな。そして、今のあなたが苦しいときにふと思い浮かぶ人物の1人が、私でありますように。
これは、現在の私が、現在のあなたに向けて、未来のあなたが読むために残したタイムカプセルです。
今これを読んでいるあなたの目線に立つとするのなら、「Dear.過去のあなた・From.過去の私・To.未来のあなた」といった感じでしょうか。難しいですね。
一見、まったく時をかけていないようですが、これを読んだあなたは今横にいる私を、なんとなく過去から来た人物かのように錯覚するのです。きっと。
これで私の作戦は大成功。憧れの、時をかける少女になれたのです……。お付き合いいただきありがとう。これからも何卒よろしくね。