女子校なんて贅沢だ。
だって、女子校って、私立ばっかり。庶民には払えないんです。

私立の中学を受験する大親友。私も通いたいと母に聞いてみると…

小学5年生の冬、当時の大親友に言われた。
「ねえ、○○女子中学、一緒に受験しようよ!」
毎日毎日飽きもせず一緒に遊んでいた大親友。そんな彼女は、どうも電車で1時間くらいかかるところにある、中高一貫の女子校を受験するらしかった。

中学校は当然同じところに通うものだと思っていたわたしにとって、それは晴天の霹靂だった。毎日一緒の大親友と、まさか、中学校で離れてしまう!?
そんなこと考えたこともなかったわたしは大慌て。

「受験する!親に言ってみる!」
その時のわたしは知らなかった。学校は、タダじゃないところがあるということを。タダじゃないどころか、ひっくり返ってしまうほどのお金がかかるということを。

家に帰って、母に無邪気に聞いてみる。
「○○ちゃんと同じ中学校に行きたい!受験する!」

わたしの母は心を病んでいた。気に入らないことがあるとすぐに泣き始めては、ものを投げ、かんしゃくを起こす人だった。
そんな母の顔色をうかがって生きることに、幼稚園児の頃から慣れていたわたしだったけれど、まさか、行きたい学校について提案することが、彼女の機嫌を損ねるなんてことは想像だにしなかった。

泣きわめく母を見て立ちすくむことしかできなかった小学生の私

母は急に泣き始めた。
「どうしてそんなひどいことを言うの!?」
そして父に電話をかけて、わたしがいかに家計についてわかっていないかを泣きながら訴えて、家にお金がないのが苦しいと言った。

彼女が泣き叫ぶ引き金がいつもとは違ったけれど、母が仕事中の父に電話をかけながらお金について泣き喚くのはいつも通りの光景だった。
泣き喚く母を見て、小学生のわたしには立ちすくむことしかできなかった。

「ごめんなさい……」
謝ることしかできなかった。

その日の夜、父が仕事から帰ってきて、わたしに教えてくれた。
わたしの大親友が受験する学校は、私立であるということ。私立の学校に行くには、莫大なお金がかかること。わたしの大親友の家は、我が家とは比較にならないお金持ちだということ。我が家からは行かせてやれないこと。

「ごめんな。でも、公立中学校であっても、勉強できるのには変わりないよ」と、父はわたしを慰めるように言った。

変わりなくないよ。全然同じじゃない。大親友がいないもの。
そんなこと言っても意味はないと、小学校5年生のわたしにはもうとっくにわかっていた。

我が家にお金がないことは知っていた。それは、世界に雨が降ることとか、母が毎日泣き叫んでいることとかと同様に、圧倒的な現実であって、どうしようもないことだった。

いいなあ、女子校。はしゃぎながら下校する女の子たちを見て思うこと

翌日大親友に、同じ中学校には行けないことを伝えた。
二人で泣いた。彼女は彼女で、家の考え方から地元の公立中学校に行くことは許されていなかったし、子供だったわたしたちには、どうしようもない現実だった。

進学した公立中学校で、わたしは上手く友達が作れなかった。毎日毎日、ああ、大親友が同じ中学だったらなあ、と考えて過ごしていた。彼女は彼女で、女の子ばっかりの生活にしばらく慣れなくて、よく二人でお互いの中学校の愚痴を言っていた。

女子校なんて贅沢だよ。一部の人間には、与えられもしない選択肢なのだ。ひょっとしたら奨学金を借りるとか、そういうやり方もあったのかもしれないけれど、結局それだって借金だ。お金がない人間には、自分が望む場所で勉強する自由も与えられていない。

いいなあ、女子校。
大親友が通っていた中高一貫の女子校は、大人になった今のわたしの職場の近くにあって、よくはしゃぎながら下校する女の子たちを見かける。

いいなあ、女子校。
わたしも彼女と、あの制服を着て、毎日毎日笑い合って過ごす中高時代があったのかもしれない。
我が家には途方もない額だった学費を払ってもらって笑い合う女の子たちをぼんやり眺めながら、叶わなかった青春を思う。
いいなあ、女子校。