ずっと言えなかったことがあった。
私はAV女優だって。
でも、気づいてたんだね

初の2人きり京都旅行。計画を練りながらあなたは葛藤していたんだね

最近、電話がぎこちないのも、貴方がずっと眠れないと言っていたのも、悩みがないかって聞いてきてたのも。
会えない間に、貴方がもう1人の私を見つけてしまったからだったんだね。
宣言明けに行こうって話してた初めての2人きりの京都。
旅行の計画を練りながら、葛藤していた貴方を思うと涙が出てきます。
私がわがまま言って着せてもらったお揃いの和服。天気予報はこれから雨だよと、貴方は少し困ったような顔をしてたけど、すごく似合ってて、いっぱい褒めたら嬉しそうにはにかんでたね。

伏見稲荷も、屋形船も、二年坂も、まだこんな世の中だから、どこも誰もいなくて、貸し切り状態。
本当に2人だけの世界のようだった。
夜。貴方はとても素敵な宿を見つけてくれた。2階に広い和室がついていて、水面の境目がわからないほど透き通った露天風呂、石や枯れ木、黒い枠線でレイアウトされた和モダンな室内の装飾のセンスに、予約していた貴方が驚いていたね。結局曇り空のまま雨に降られることもなくて、1日の何処をとっても本当に楽しかった。

「全部話してほしい」。震える瞳で言う貴方の姿に、私は全てを悟った

今日は私と過ごしてくれてありがとう。
貴方にそう伝えたら、貴方は私を、震える瞳で見つめ出した。困ったような泣き出しそうな顔をしている。
今までとは違う、嬉しい顔でも、悲しい顔でもない。
「嫌いになっていないから、聞いて欲しい。そして全部話して欲しい」
私は全てを悟った。
勝手に涙が溢れて、泣きたいのは貴方のはずなのに、ぼろぼろと、私から止まらない。
貴方は泣き出した私を抱きしめて、続けた。
「どうすればいいか辛かった。
たくさん悩んだ。

会えない間、君を偶然ネットで見つけた。君の姿を見て、こんなにショックを受けるなら、出会わなければよかったと思った。もう俺は君に会わないことにしようかとも。
でも、それは無理だって、君との思い出が引き止めてくれた。
二度と会わないなんて選択肢は、俺にはもうあり得なかった」
貴方はそう言ってくれた。
それを聞いて今度は嗚咽が止まらなくなった。苦しくて、貴方の優しさが、貴方の覚悟が、素直に認められなかった。

私は全てを話した。話し終えて、
「別れたい。貴方にだけは知られたくなかった」
私がそう言うと、「別れたくない」。貴方がそう言う。
私はその言葉が信じられなくて、ずっと泣き続けながら、しゃくりあげながら、触らないでと貴方を突き放した。
酷く興奮状態に陥っていた私は、気づいたら、泣き疲れて眠ってしまっていた。

一晩中、私を優しく包んでくれた貴方の姿を見て、また涙が込み上げる

朝。瞼が重い。引き攣って泣いていたからか顎がとても痛い。頬の感覚が鈍いことから顔が浮腫みきってるのがわかる。けれども何か、暖かい。
いつもの半分も開かない瞼から、朝日が入り込んでくる。
光と共に見えたのは、貴方が私の手を握り、もう片方の腕で私を優しく包んでいる姿。
一晩中、貴方は私から離れないでいてくれた。
また涙が込み上げてきた。
罪悪感。情けなさ。貴方の本当の優しさ。覚悟。

本当は、別れたくない。
やっぱり、別れたくないよ。

そう言うと、貴方が目を覚ました。
泣いている私を優しく強く抱きしめる。
離れないから。
そう囁いて、腫れ上がった化粧のない私の、酷く醜い顔にキスをした。
雨の予報だったはずの天気は、快晴へと変わっていた。