“コロナ禍の恋愛”というエッセイテーマを目にして、私は無性にあなたに手紙を書きたくなりました。
きっと書いても届かないって分かってるけど、自分のためにも、少しだけしたためようと思うのでほんのちょっとだけ書かせてください。

初めて会話した時、マスク越しでも分かる笑顔にきゅんとした

バツイチのあなたへ。
あなたに別れを告げてから少し時が経ちますが、お変わりないですか?
もうすぐ梅雨も明けて、あなたが四季の中で一番好きだと言っていた夏が本格的にやってきますね。

ちょうどあなたに初めて出会ったのも、去年の夏真っただ中の暑い夜でしたね。私はコロナ禍で当時お付き合いしていた彼氏と価値観の大きなズレが原因でお別れしたばかりで、心にぽっかりと大きな穴が開いたまま、ぼんやりとただ仕事をこなすだけの毎日を送っていました。

そんな毎日のある日、それは職場の上司と食事に行った帰り道でした。こちらに転勤してきたばかりのあなたに道を尋ねられたのが始まりでしたね。覚えてるかなぁ。
身長が180センチくらいあって、スラリとした半袖のシャツにスラックス姿。
「道、教えてくれてありがとう」と言った時のマスク越しでも分かるくらい目がくしゃくしゃに無くなった子犬みたいなあなたの笑顔に、不覚にもきゅんとしてしまったことを悔しいくらいに、今でも覚えてます。

「良ければ、一軒ご一緒にどうですか?」
あなたにそう誘われたとき、私はバカだから勝手に一人で舞い上がって、「こういう出会いから始まるのもアリなのかな……」なーんて呑気なことを考えながら居酒屋の暖簾をくぐっていたのでした。

レモンサワーをちびちび飲みながらおしゃべりをすると、共通の趣味があったり、性格が似ていたり、ありきたりな話題でお互いに意気投合し始めた私たち。「これは運命だ!!!」なんて私が思ったのも束の間、その後あなたは衝撃な一言を私に言いましたよね。
「バツイチで4歳の娘がいる。親権は前妻が持っている」と。
その一言が強力すぎて、その後のやり取りはよく覚えていません。ごめんね。

私の思いとは裏腹に、会う回数はどんどん増えていって…

その日あなたと別れた後、「これは運命なんかじゃなかった」と私は自分に強く言い聞かせて、もう会うことは無いだろうと思っていました。だけど、その後もあなたは食事や映画に誘ってきて、私の思いとは裏腹に会う回数はどんどん増えていきましたよね。
きっとあなたは離婚して、地元を離れて寂しくて、私を誘っていただけなのだろうけど。

あなたと待ち合わせをして、会話をするたび、マスク越しに「これ、美味しいね」と、笑い合って食事をするたび、どんどん私はあなたに惹かれていました。
もう自分がその気持ちに気付いた時には時すでに遅し。あなたがバツイチで娘さんがいることなんて、これっぽちも気にならなくなって、あるのは「ただ一緒にいたい」という気持ちだけでした。
だけど、私がすでにあなたに惹かれていることを分かってたんですよね。

今になって振り返ると、なんて曖昧で最低なセリフだったのだろう

私に大事な話があると呼び出したあの夜。
「手術を受けているから子供も作ることはできない」と、あなたはまた衝撃的な言葉を私に投げたのでした。会う直前、てっきり私達の今後のことを話してくれるのだと思っていました。ほんとバカですよね、私。

そして私に「俺は子供をもう作れないし、今は結婚もしたくない。けど俺はもぴちゃんのことが好きだし、俺の勝手なわがままだけど、今はこうして一緒に過ごしたい。いつかは俺のことは踏み台にして、いい男を捕まえて結婚して、子供を産んで幸せになってほしい。それが俺の願い」と。

今、冷静になった私がこのセリフを思い出すと、なんて曖昧で最低な男なんだ!私のことを寂しさを埋めるための都合のいい女として利用してるだけじゃん、って思うけど、当時の私はあなたのことが好きで、失いたくなくて、涙を堪えながらその言葉を受け入れたのでした。

一緒にいるとあなたはいつも私にとろとろに優しくて、何でも褒めてくれて、まるで心地よいぬるま湯に浸かっているような気分にさせてくれてました。
あなたのおかげで私は6キロダイエットに成功できたし、難しい資格試験も合格できました。いつもあなたがかけてくれる前向きな言葉達が、私を奮い立たせてくれてました。
資格試験合格のお祝いにホールケーキまで準備してくれて、すごく嬉しかったし、ある日食材の買い出しに二人でスーパーに行った時も「なんか、同棲してるみたいだね」ってあなたがはにかみながら言った言葉、胸がきゅんとしました。

でもね、その嬉しさを噛みしめると同時に、「この関係ってなんだろう、どうしてこんなに幸せなのにあなたとの未来は確約されていないんだろう」って、ハテナがどんどん私の中で大きくなっていきました。

今なら出会えてよかったと思う。私はもうきっと大丈夫

コロナ禍で当たり前が当たり前じゃなくなった今、大好きな人と一緒にいられることが幸せ。
今の時代、“結婚”や“子供”にこだわらないで生きる生き方もある。
今が幸せなら、私は幸せ。

何度もこんなことを頭の中で反芻しては、未来が見えない不安と幸せが交互に押し寄せてきて心がどんどん苦しくなりました。
私は結婚に対する憧れや子供を持つことに対する希望が少しずつ歪み、いつの間にかそれらに対する思いまで拗らせてしまっていたのでした。
いつの間にか魔法も解けて、もう私が浸かるにはあなたの優しいぬるま湯では温度が下がりすぎていたのかもしれません。

あなたは本当に曖昧で最低な人。だけど、あなたの優しさに包まれたから私は立ち直れたし、前向きに何でもこの一年努力することが出来ました。
今なら出会えてよかったなと思えます。きっとこの一年間はこれから私が年を重ねていっても時々思い出してしまうくらい非日常で、濃い一年でした。

今度は人に頼らず、自分で自分のことは幸せにします。きっとその力が私にもついたはずだから。あなたも私の知らないどこかで、元気に生きていてください。
さようなら、ありがとう。

もうきっと大丈夫。私はこれからもこのコロナ禍で凛と前を向いて生きていく。
私の一番の味方である私はもう前を向いている。