あのいいね!が堅物なわたしを動かした。

コロナが本格的に猛威を振るい、1回目の緊急事態宣言が発令された2020年春。わたしは当時25歳で12年近く想ってきた元彼氏との大失恋から半年が経過した頃だった。

元彼と別れてから5年間ずっと想っていたのに、私の恋は叶わなかった

元彼とは、別れて5年が経っていた。しかし、忘れらないまま年を重ね、彼氏いない歴5年を迎えていた。

そんな元彼から突然わたしの誕生日に連絡がきて会ってみたら、彼女と同棲3年目だと告げられ、大失恋をしたわけである。失恋から3か月ほどは、大人げなく、泣いてばかりいた。

そんな失恋の傷が癒えていないが泣きに泣いた末、「いい年だし、本気で付き合える人と出会いたい」と前を向こうと思えてきた頃。突然全世界を襲ったコロナウイルスによって、これまで参戦できていた街コンや婚活パーティーがなくなり、男性と出会う場がなくなってしまったのである。「やっと前を向き始めたのに、こんちくしょう」と暴言だって吐いたかもしれない。

そんな時、高校の友達からマッチングアプリを勧められた。ネット上の友達や交流が信用できずに、25歳まで成長したわたしだったが、実際に会って出会うということが難しくなった世情から、始めてみることにした。

初のマッチングアプリ。にこやかな笑顔の男性から「いいね!」がきた

初めてのマッチングアプリの登録や自己紹介を書く中で、右往左往の末、登録完了の文字。それだけでも達成感があった自分に小さな笑みが漏れた。

登録完了後も、いざアプリを見ていけば、ネットという情報の海に男性が数多いて、自己紹介のどの部分の見て、判断すればいいのか悩む。「顔か、付き合うんなら顔がやはり大事か、自分よ」と自問自答しながら、いいね!を押してみた。

正直、わたしは文章で思いを伝えることが下手で、自分の気持ちをちゃんと伝えたいと思うと、どんどん文章が長くなってしまう傾向にある。友達とのやり取りでも、わたしだけが長文で返してて、ウザがられてないかなと不安になることもあった。文字だけのコミュニケーションに苦手意識を感じていたのである。

始めてみたマッチングアプリ上でも、何人かとメッセージのやり取りをする中で、相手の温度感がわからずに返信に困ったことも多々あった。そんな情報の海の中、一人の男性からいいね!がきた。

プロフィール画像は、にこやかに笑いながら、馬に乗っているもの。大体が、本人の顔の写真や全身が映っている画像の中で、乗馬! なんとなく、面白そうな人だし、動物が好きな人に悪い人はいないだろうという思いから、いいね!をお返しした。

そこからは、メッセージのやり取りを1日1回していった。どんな趣味なのか、どんな人生を送ってきたのか等々。わたしが、ついつい長文になってしまっても、彼は、同じ分だけ返してくれた。

メッセージの話題では、お互いのコンプレックスの話もあった。人には、言いにくいことも伝えあい、彼が真摯にわたしと向き合ってくれている。そんなことも感じることができた。そのやり取りが5月の始めから行われ、「緊急事態宣言が明け、落ち着いたら、一度ごはんに行きましょう」と約束した。

緊急事態宣言が解除され、実際に彼に会ってみたら素の自分で話せた

そして、緊急事態宣言が解除され、実際に会うことになる。だが、約束の日の朝、「ネットで知り合った人なんて危ないのではないか」と不安が突然襲ってきた。

けれど、たった1か月だが、毎日やり取りした彼とのメッセージ。そして、緊急事態宣言が明け、状況が落ち着くまでは会いたくないというわたしの思いを汲み取り、待ち続けてくれた彼を信じてみようと思い、ドアを出た。

そして、実際に会った印象は、メッセージでの紳士な感じよりも、不器用そうな人だった。ただ、気を遣わず、共通の好きなお酒の種類など素の自分で話せた。帰り際に「また会いましょう」と、次の約束をして別れた。

2回目は、コロナで飲食店に行くことも憚られ、彼の家でごはんを頂くことに。コロナ禍以前でも、用心深い性格のわたしは、男性の家に行くことなんてなかったのに、「彼だったら、大丈夫だろうな」と謎の自信があったのは、今でも不思議だ。

そして、家でごはんを食べ終わって談笑中。彼から「付き合ってくれますか」と言われて、頭で考える前に「いいよ」と、返事をしていたのである。

世界中でパンデミックが起き、日本でも今までの生活が送れないという前代未聞のことが起こった。わたしの場合、職場も休業となり、家から出れないストレスで精神的に辛い部分も多かった。

ただ、空白の時間が出来たからこそ、抵抗感を抱いていたマッチングアプリを始める勇気を得ることができた。そして、誰かと関わりたいという思いが強くなったことで、彼にも出会うことができたのも事実。現在も乗馬の彼とは、お付き合いが続いており、結婚の話も出始めた。

コロナ禍というストレスも多く、漠然とした不安な状況の中。まさか12年という長い期間わたしの心の中に住み続けた元彼を忘れて夢中になさせてくれる人と出会えるなんて。恋は、どんな状況下でも生まれる。そんなことを身をもって実感した。

直接会うという行動が制限されたからこそ、出会う機会がなかった人とつながる。小さな勇気で一歩踏み出したことで、次につながるいいね!と出会えることを知ったのだった。