小学生の頃、大好きだった曲がある。

近くのレンタルビデオ屋で借りたCD。プレイヤーにセットしてラジカセで録音した。満足そうな10歳のわたし。これでいつでも聴ける! とワクワクしたのを覚えてる。

年をとっていくって分かっているから、私は過去に執着しているのかも

当時のわたしに「なぜその曲が好きなの?」と聞いても、「わからない」と答えると思う。でも、今はわかる気がする。幼いながら歌詞の登場人物に憧れてたんだろう。

1人の男性を虜にする魅力的な女性に、そんな人になりたいと思っていたんだろうなって。でも、なれなかった! ごめんね(笑)。

中学生の頃、大好きだった曲がある。ドラマを観てハマった曲だ。過去最高に聴いたと思う。それくらいハマった曲。かっこいいと思った。

不登校だった中学時代、なんて恵まれない人生だろうと愕然とした。そんな時に出会った曲。こんな日々もいつかは、「美しい思い出」となるのかと思えた。お陰で私は他人も自分も愛そうと思えた。

すがる思いで当時は聴いていたけど、今は穏やかな気持ちで聴いてる。あの頃の傷を乗り越えたから。頑張って生き抜いてくれてありがとう、14歳の私。

すべてが優しくて懐かしくて泣きそうになる。もう、記憶の中でしか戻れないと分かっているから。

私は年をとっていく。今日も過去になる。分かっている。だから、すがっていたい、ずっと乗っていたい。私は過去に執着しているのかもしれない。

いい思い出ばかりじゃなかったのに、どうして過去が恋しくなるのだろう

だから昔の曲ばかり聴いてしまう。思い出が詰まってる曲ばかり聴いてしまう。その時じゃないと思い出せないから。なにかきっかけがないと思い出すこともない過去だから。決していい日々ばかりじゃなかった気がする。なのに、どうして過去が恋しくなるのだろう。

昔、母に「よく過去のことを思い出すんだよね」と言った。「それが大人になると言うことだよ」。母はそう答えた。

でも私は、大人になりたくない(もう大人だけど)。なぜか分からないけど、「今」が「過去」になるのが怖い。年をとって死んでいく、当たり前のことが怖い。だから嫌なんだ。未来が。ずっと過去にいたい。

中学生の頃からファンだった女優さんが結婚した。ちょっと切なかった。私が好きなドラマに出てたあの子はもういないからだ。そうやって時代は進んでいく。

私もアラサーになるわけだ。どんなに嫌だとあがいても、時間は進むし年度は変わる。誰も未来に逆らえない。

「過去には戻れない」って分かってるから、恋しくなるのかもしれない

あの頃ああしとけば良かった、こうしとけば良かった。後悔するから恋しくなる、戻れないって分かってるから恋しくなる。後悔のない人生を送れていたら恋しくなることもなかったのかもしれないけれど、人は後悔をしながら学んでいく。時間は戻らないから進むしかないのだ。

でも今は、ほんの少しだけタイムマシンが必要じゃなくなった。未来に少し期待できるようになったからだ。私もいろんな経験をして強くなったと言える。

現実的には過去にタイムスリップなんてできないけど、再生を押すと思い出す。あの頃の景色、あの頃の思い出、良いことも悪いことも。高校生の頃聴いたあの曲も、社会人になって聞いたあの曲も、私のタイムマシンとなっている。記憶の中で行ける。泣いて笑ったあの日に。

タイムマシンは存在しないと誰が言ったのだろう。今聴いてるこの曲も何年後、タイムマシンとなって私を導いてくれる。その時に思い出すのは良い日でありたい。未来の私に向けて今日も「再生」ボタンを押す。