暇つぶしがてらZoom合コン。女子同士の合図もオンライン仕様に

5分割されたPCの画面上に、見覚えしかない顔が登場した。

金曜にZoomで合コンをしようと言い出したのは私の友達だった。
外出自粛の要請が出て、繁華街がシャッターで埋め尽くされた春。カレンダーの閑古鳥を持て余した大学生は腐るほどいて、かくいう私もその一人だった。
暇つぶしがてらでいいし参加してよ、とネコのスタンプで頼まれた。金曜の20時に間に合うように、髪を巻いて清楚系のブラウスを装備する。背景となる本棚から参考書を抜き取り、ダッフィーとシェリーメイのぬいぐるみを座らせながら憂鬱になっていた。
オンラインのお喋りはタイミングや間が難しくて嫌いだ。適当に男子勢に話を回してもらって、21時前には切り上げようと思った。
「Zoom映え メイク」と検索窓に打ち込み、動画を流しながらラメのシャドウをまぶたに乗せ、リップの色を選ぶ。
やる気があろうがなかろうが、合コンではきっちりメイクをするのがメンバーへの礼儀だと思っている。

Zoomのチャットルームに入室した。今日のメンバーは経済学部の女子3人と商学部の男子3人だ。男子が1人遅れてくる、とのことだった。

まず乾杯。男子2人の自己紹介をにこにこと聞きながら、右手で前髪の左側を整える。
女子3人で決めた合図だ。「前髪の左側を整える」は「興味なし、サポートに徹する」、「前髪の右側を整える」は「気に入った、援護射撃を頼む」、「髪を耳にかける」は「様子見」という風に。対面合コンではグラスの位置を合図にしていたが、こうして言語は移り変わるのだなと感じる。

こんな再会の仕方があるのか。頬が引きつったのが自分でも分かった

私以外の女子2人が髪を耳にかけたところで、女子陣の自己紹介をする流れになった。
「おうち時間ではネイルアートにハマってまあす」と適当に言葉を並べる。個人的な偏見であるが、男子ウケが悪い趣味ランキングトップ5に入るはずだ。
今日は友達のサポートと割り切ってさっさと切り上げよう。適度に質問を挟みながら、男子2人の武勇伝に相槌を打った。

しばらくして、遅刻の男子1名がチャットルームに入ってきた。
遅くなってごめんー、と真っ暗な画面が話す。低く落ち着いた声だった。瞬時にカメラがオンになり、遅刻男子の顔を見た瞬間、心臓が一拍すっ飛ばした。
高校時代の元彼だった。1年半つきあっていて、文化祭も体育祭も一緒に過ごした。試験終わりに寄り道してパフェを食べた。川べりで花火をした後に触れるだけのキスをした。しかし受験生になる前の冬、彼は理由も言わず急に引っ越した。携帯の連絡がつかなくなり、自然消滅していた。

こんな再会の仕方があるのか。頬が引きつったのが自分でも分かった。懸命に笑顔を保ち、「はじめましてー」と皆に合わせて挨拶をする。
友達2人には元彼のことを話していなかったし、SNSの関連投稿も全部消去したため、私と元彼さえ気づかないふりをすればつつがなく終わる。
合コンの雰囲気を壊してはいけない。頭が真っ白になり、胸が早鐘のように鳴る。茶髪に白シャツの元彼は、にこにこと遅れたことを詫びている。

会話の裏側で個別チャット。「きれいになっててびっくりした」

ポン、とチャットの通知が届いた。
「秘密でお願い」
送信者は元彼、宛先は私個人。流暢に話しながら顔色一つ変えない、器用な奴だ。
「りょうかい」
チャットの宛先を元彼に設定して、送信。
えー、〇〇くんバスケやってるの、試合見たーい、と半オクターブ高い声をあげる友達に、私も絶対いくー、と高めの音程で同調する。この際〇〇くんは本当にどうでもいい。

またチャットが届く。
「高校ではマジ迷惑かけてごめん」と、元彼。口では好きなアーティストの話を切り出している。
「色々と説明してほしいんだけど」と、私。口ではやっぱり最近はヒゲダンかなあ、と答える。
「せつめいする!」「こんどごはんいこ」と、元彼。ひらがなは焦っている印だ。高校の中間試験に遅れそうなときに、無変換で送られてきたラインを思い出した。
「いいよ」
うっかり全員あてにチャットを送らないよう、細心の注意を払う。いつのまにか場の話題は、いかにYOASOBIが天才か、に替わっていた。
「ありがと まじで」
「てか、きれいになっててびっくりした」
肋骨をきゅっと掴まれた気がした。ほとんど無意識で、私は前髪の右側を整えた。