あなたにとって、忘れられない人はだれですか?
私は中学3年時の1年間、席がずっと隣だった彼の事がどうしても忘れられない。

ハブられたんじゃない、空気のような存在なんだ。こみ上げる悔しさ

中学時代の私は、空気のような存在だった。
成績もスポーツも人並みで、一人は怖いとクラスの女子グループの中に「頑張って」入っていた。と言うよりも、入らせてもらっていた。だからこそ本当の友達もいなかった。いつもクラスのみんなとは波長が合わないと感じていた。けれども一人は怖いから、必死になって女子グループの輪に入ろうとしていた。
いつも通りクラスの女子グループで固まって、クラスの一番目立つ女子よりも目立ってはいけないと思いっきり運動するのをセーブしながら体育の授業を受け、移動教室の時には金魚のフンみたいに誰かの後ろにくっついていた。

そんなある日、グループにいる女子のうち一人が写真を見せていた。その写真は、グループにいた私以外の女子達でカラオケに行った写真だった。カラオケに行ったという事実は、その時知った。
だがその女子達はカラオケに行かなかった私に見向きもせずに、「あの歌上手かったね」、「〇〇ちゃんめっちゃ声綺麗!」と思い出に浸っていた。カラオケにいなかったのは私のみだったにも関わらず。

その時私はハブられたよりも、その女子グループの中で何も無い存在になっている、まるで空気のような存在だったという事実にショックを受けた。前から薄々感じていたものの、「やっぱり」と言う感じでじわじわと悔しさが沸いた。

隣の席の彼と話す時間だけが唯一幸せで、私の心を軽くした

そんな時、私の席の隣には彼がいた。彼の言葉を聞いて私の沈んだ気持ちは随分と軽くなった。
「星って、凄いよな。何千年、何億年も前に光った光が、今輝いていて、それを俺らが今見ている。何億光年も前に光った光をだぜ。まさに神秘的だよな。そう考えると、なんか俺らの悩みってバカみたく小さくね?」

何を言っているのだと思う人もいるかもしれない。きっと彼は、「勉強したくねー」とか、「学校だりいー」って意味で放った言葉なのかもしれないが、その言葉は、私に希望をくれた。自分がいかにちっぽけな悩みを持っていたのかと。宇宙の話と友達から裏切られる悔しさ、どこにも共通点は無いような気がするが、宇宙規模で考えれば自分の悩みなんか大したことないのだ、と当時の私にとっては真新しい考え方だった。

彼は中学3年になってからずっと席が隣だった。偶然が重なり、1年間ずっと隣だった。そして彼だけはずっと私のそばにいて私という人間をしっかりと見てくれている気がした。そう感じたのも、私が彼と話している時間を忘れられないからだ。

私たちは普段の何気ない会話で、空想的な、壮大な、夢のある話をしていた。中学生なのに一丁前に政治について語る日もあれば、「雲の上って座れるんじゃね?」とかいうくだらない話をしていた。特に理由もなく、お互いが話したいから話していただけ。お互いの好きなテーマを一日1つは持っていて、それについて授業中や短い休み時間で、お互いが席に座っている時だけ、そのテーマについて考え語り合っていた。今ではそんな時間が私にとって唯一の幸せな時間だったのかもしれないと思う。

もう会うこともないけれど、たまに夢に見る。ねえ、また話そうよ

私は彼に特に恋愛感情も生まれず、学校以外で会う事もなかった。その時はただ「隣の席のクラスメイト」としかお互い思っていなかった。
だが、10年以上近く経った今、彼との会話、彼との時間がたまに夢に出てくる。彼とは高校から別々になり、中学の卒業式以来一度も会っていない。成人式にも同窓会にも参加しない私が、彼と再会出来るはずがない。
今でも彼への感情が「恋愛」なのか、私に前向きに生きる希望を与えてくれた「救世主」のような存在だったのか、それとも単なる仲の良かった「男友達」だったのかは今でも分からない。

だがこれだけは言える。彼との時間が無かったら、私はきっと違う人間になっていただろう。いつも人に合わせて、自分の意志で行動せず、誰かの言いなりの人生だったのかもしれない。だが彼の言葉で私は救われ、考え方を変えればどんな悩みでもちっぽけに見えるのだと気づかせてくれた。そして今私はどこへでも一人で行ける人間へと成長した。一人旅行は当たり前だし、一人で焼き肉に行くのは日常茶飯事だ。

彼はあの時、ただの暇つぶしで私と会話をしてくれたのかもしれないが、無意識に私を変えてくれた。そしてもし彼と奇跡的に再会できたら、こう話しかけたい。
「ねえ、またくだらない話、しようよ」。
今なら永遠に彼と語りつくせる気がする。