寂しさがあるから、元気になれる。明るさが私の毎日を彩るのと同じように、物悲しさが私の人生に陰影をつけてくれる。
体がひんやりして、私の存在する場所はどこだろうと考える日がある。そう思うのは不思議と、友達とカフェで趣味について語り合った日だったり、恋人との旅行から帰ってきた夜だったりする。
「孤独」に酔ってしまうのは人の性。そんな日は詩人ぶって夜を散歩
1人でいるのは気楽だ。しかし、楽しかった時間の、満たされた気持ちの後にある1人の時間は非常に空虚なものに感じられてしまう。その虚ろが、むしろ心地よかったりもするのだけれど。
贅沢だけど、「孤独」に酔ってしまうのはおそらく人の性なんだろう。そんな日は思い切って、詩人ぶって夜を散歩してみたりする。
歩いて1分のところにあるオムライスがおいしいカフェも、もう少し行ったところにある唐揚げが絶品の揚げ物屋さんも、星空の下ではひっそりと息を潜めていた。
「せいひつ」
最近聞いた言葉をわざと大げさにつぶやいてみると、ちぐはぐな自分とのギャップがなんだか愛おしくなった。「静謐」なんて言葉が身に沁みるような夜を、お気に入りの白いスニーカーを履いて、ふらりふらりと歩く。自販機には大きな蛾がとまっていた。
「はーっ」。甘さとアルコールと、多幸感が胸に押し寄せて、生を実感
しゃあせー。
よく見る同い年くらいの男の子が、あくび混じりに品出しをしていた。コンビニの明かりが目にまぶしい。
毎日を生きているだけでえらいんだから。いつも買うティラミスケーキを、値段を見ないでレジまで持っていったりしちゃおう。偉大なる、ささやかなる私の贅沢。
欲張って缶チューハイも一緒に持っていくと、よく見る男の子は何も聞かず、おしぼりを2枚、一緒にレジ袋に入れてくれた。
レジ打ち、早くなったなあ。
ありがとうございます、と商品を受け取り、元来た道をまた、ふらりふらりと歩いていく。
「はーっ……」
喉をつ、と滑り落ちる冷たさが心地よい。
私は生きている。甘さとアルコールと、そして多幸感が胸に押し寄せて、生を実感する。
何があっても生きていける。全部飲み込んで、まるごと私なんだと思う。この世の幸せを全部独り占めしてる気持ちになるこの瞬間が、私のよりどころなんだ。
日々を生きる。丁寧に、大切に、毎日を生きる。
大切にしたいのに、忙しさに追われる中で忘れがちになってしまう。どうしてなんだろう。どこから私の毎日は、私のものではなくて誰かのものになってしまうのだろう。
私が私でいられるこの瞬間が、自分にとっては何よりも幸せなのだ。お腹のあたりがぽわんと温まるのを感じながら、丸いティラミスを丁寧に崩した。
今日はきっと、いい夢。やわらかに、静かに、眠りに引き込まれていく
そろそろ寝よう。
部屋を整え、加湿器をつける。エアコンの温度を下げる。電気を消す。ふわふわの毛布にくるまって、目をつむる。じんわりと広がるゼラニウムの香りに包まれて、呼吸が深くなっていくのがわかった。
ぽかぽかしたものが、じんわりと体全体に広がっていく。
明日の天気は晴れだったっけ。どこへ行こうか、何をしようか。明日はどんな一日になるだろう。
今日はきっと、いい夢が見られる。
やわらかに、静かに、眠りに引き込まれていく。世界の枠組みに、とけていく。