2013年9月、オリンピックの東京招致が決まった。自分に関係あろうがなかろうが、誰かの留年決定だとか金環日食だとか、何かと理由を見つけては飲み会をしていた私達は「OMOTENASHI」と「トッキョウ!」を散々真似しながら、例に漏れずオリンピック招致に祝杯をあげた。

就活を目前に控えた大学3年生の私達にとって、28歳なんて遠い未来で「オリンピックが開催される頃には私達も結婚しているのかなぁ。子供も産んでたりして……」と赤くなった顔をほころばせながら、7年後に思いを馳せた。

大学2の時、初めて本気の恋をした。ほろ酔い気分の楽しい時間だった

恋愛ってアルコールみたいだ。適量を守れば、とても楽しい時間を過ごせる。しかし、過剰に摂取すると、頭が痛くなったり、嘔吐したり、醜態を晒したり、記憶をなくしたり……。翌日目が覚めると、水を飲みながら「もう一生お酒なんか飲まない!!」と出来もしない宣言をする。そして、数日後には同じことを繰り返している。

大学2年生、人生で初めて本気の恋をした。それまでに彼氏がいたこともあったけど「告白されたから付き合ってみた」という感じで、結局そこまで大切にすることもできず、すぐに別れてきた。

そんな私が人生で初めて積極的に動き、約1年の片想いを経て、人生で初めて告白した。そして、フラれた。それでもなんだかんだすったもんだ追い回していたら、2ヶ月後、あちらから告白してきた。粘り勝ち。

付き合い始めて1週間後には、一人暮らしをしていた私の部屋に彼が転がり込んできて、同棲生活が始まった。デートに行ったり、一緒に料理をしたり、ふわふわほろ酔い状態の楽しい時間だった。

付き合っていた彼にお金を盗まれ、職場の上司とは曖昧な関係になり…

1年後、彼にお金を盗まれていたことが発覚した。総額はヨーロッパに2週間程旅行できるくらいの金額になっていた。

なのに「別れた方がいいよな~、彼と結婚なんてしてしまったらお金に苦しむんだろうな~」という気持ちを飲み下して胃の奥底に押し込み、その上に「それでも好き」をぎゅーぎゅーに詰め込んで、付き合い続けるという選択をした。完全なる酩酊状態。

私が社会人になるタイミングで一緒に上京した。そしたら、またお金を盗むようになった。4年間、全身を駆け巡っていたアルコールがスッと抜けていった。だけど時折、残った微量のそれが記憶を呼び覚まさせ、寂しさに襲われた。

数ヶ月後、彼氏について相談していた職場の上司から食事に誘われるようになった。「これ付き合ってるの?付き合ってないの?どっちなの?」という関係になったタイミングで、その上司が先輩と付き合い始めたことが判明した。

二日酔いを和らげるために口にした迎え酒は、症状をより悪化させた。ゲーゲー嘔吐しながら「もう一生お酒なんて飲まない」「恋愛とは距離を置こう」と心に決めた。

オリンピック開催が1年の延期期間を経ても、私は独身を謳歌している

そんなことを言いつつ、泥酔しない程度にお酒を飲んでみたり、ノンアルコールカクテルで酔っ払ったふりをしてみたり、過去の失敗談をつまみに「『あの時この人と結婚する』って意気込んでたよね」「そんな記憶ないよ~」と女子会を繰り返していたら、あっという間に2年の月日が流れていた。

気がついたら30歳の背中が見えてきていた。周囲には「そろそろ終電だから!」と言うかのごとく、結婚する者が現れはじめた。その中には、あの時東京五輪に祝杯をあげた仲間も混ざっていた。

「私も終電に乗らないと!!」と思って、飛び乗ってみたら、途中で車外に放り出された。「次こそは!!」と走ろうとすると、足がもつれる。トラとウマが私の2本の足をがっしり掴んで離さない。本気で恋をしたら、もれなく苦しい二日酔いがついてくる。

2021年、オリンピックの開催が1年の延期期間を経ても、私は独身を謳歌している。30歳はもう手の届くところまで、リアリティを纏って迫ってきている。30歳までに結婚できなくても死ぬわけでもないし、後に結婚するかもしれないし、独身でも楽しい生活を送っている先輩方はたくさんいる。

でもなぜか、30歳という年齢を目の前にすると、なんとか結婚しなくてはと思ってしまうのである。なのに私は、いざ恋を目の前にすると「実は既婚者かもしれない」「遊ばれてるのかもしれない」「嘘をついているかもしれない」などと、傷つかないように、ほろ酔いにすらなっていない状態でグラスを置き、チェイサーを手にしてしまうのだ。

2013年の私に会えるなら、とりあえずグラスの水をピシャッと、というよりかはバケツでビッシャーと冷水をぶっかけて、「お金を盗む彼氏なんて今すぐに別れろ」と強めに忠告し、酔いから覚めていただきたい。

まぁ、そんなことはできないから、今日も懲りずにトラとウマを引き連れて、私は酒場に繰り出すのであった。