「『今日も大好きだよ!』って送ったのに、返信が全然来ないんですよぉ」
と、必死な顔で訴える後輩の話を親身になって聞いているふりをしながら、若いねと心の中ではこっそり微笑む。
新型コロナ禍だというのに、騒ぐ顔がとても近い後輩は、きっと彼から何かしらの同意を表すスタンプさえ返ってくればたちまち元気になるのだろう。
以前それはそれはひどい失恋をしたことを、私は後輩には伝える気がない。

あらゆる手で失恋を慰めてもらっても、効果がないぐらい好きだった彼

男性には全く縁がなかった自分にとって、働き出して初めてできた彼氏だった。
振られたのが本当に突然過ぎて、失恋したその日にも私は彼に「大好きだよ」という連絡を送りつけて、「僕もだよ」という言葉が当たり前に返ってくると思っていた。

――最初に惚れて付き合おう、って言ったのはそっちなのに。どれだけ忙しくても、会うために何とか時間を作ってきたのに。将棋も車も、全く興味なかったけれどいっぱい覚えたのに。

当の彼からは、「僕は誰かと付き合うのには向いていない人間だった。君は悪くない」という言い訳が送られてきただけで、それが余計に私を苦しめた。彼のことを考えれば考えるほど、自分が振られた理由を探してしまう。

少し太ったから?
そもそも顔が可愛くないから?
それとも、好きって言い過ぎたから?
そうしてすぐに、職場以外の場所でどうしようもなく涙があふれるようになった。車でも、家でも、持っている小物も、新作の映画も、彼との思い出がないものはなかった。その全てがあほみたいに私を泣かせるのだった。

そして私が何よりも驚いたのは、私が想定していたよりもはるかに多くの友人が、私を慰めるために食事やお泊まりなどありとあらゆることを私にしてくれたのに、その一切に効き目がないということだった。

誘われた遠出で出会った太陽の塔。生命力と存在感に釘付けになった

誰かと一緒にいるときは明るく振る舞えても、一人になった瞬間に、ともすれば余計に孤独を感じることもあった。
このままではいけない。こんな自分は嫌だ。
そうもがいているうちに、私はやっと私を立ち直らせてくれる存在に出会った。
友人に誘われての遠出で、友人が行きたがった場所の先に、彼はいた。

不機嫌そうにも見える、遠くを見つめる表情。少し猫背だけれどたくましい肉体。見るたびに変わる印象。遠くからでもすぐにわかる存在感。
私の視線を釘付けにしたのは、太陽の塔だった。

そういえば、高校生の時に太陽の塔をモチーフにした小説に夢中になった。
そういえば、教育番組で太陽の塔をモチーフにした歌を聴いた。
今思えば、以前からよく知っている存在だったが、大阪から海さえ越えた地に住んでいた私には、これまで実際に見るという機会がなかった。

その圧倒的な大きさと白く輝く胴体。近くで見ると、なるほどヒビが入っていたり色がくすんでいたり、時代を感じる気もする。
でも、それでも目が釘付けになるような存在感と生命力が、太陽の塔にはあった。

太陽の塔は私なんか見ていない。それでいいやと思えた日、ふっきれた

作者も来歴も芸術的な価値も、そんなことは全くと言っていいほどどうでもよかった。ただただ、目の前に太陽の塔があった。本当にそれだけだった。
太陽の塔目当てだった友人が呆れるくらいの長時間、私はぼーっと太陽の塔の前で立って立って立ち尽くして、飛行機の時間になり仕方なくそこを離れた。

頭の奥の方がじんと痺れて、それが家に帰ってもずっと続き、いつの間にか私は元気になっていた。
太陽の塔は、私なんか見ていなかった。それだけを覚えていた。
私なんか見ていなかった。
でもそれでいいとやっと思えた。

私が悩んでいることが、そしてそれに周囲を巻き込んでいることが、途端にバカらしくなった。あの人は私なんか見ていなかった。だからいったいなんだというのだ。
いつしか私を振った彼のことを笑えるようになり、私はまた別の人と大恋愛をして結婚した。奇しくも、結婚で引っ越した先は太陽の塔からそれほど離れていない土地だった。

太陽の塔は、いつでも私に元気をくれる。今でも私の通勤カバンには、太陽の塔のストラップが揺れている。