「おはよう。もう起きて、いつまで寝てるの、遅刻するよ。ちょっと、これ洗っておいてって言ったよね!?」
「えぇ……うーん…しら…な…い…」
朝はこんな会話から始まる私たち。

数年前の夏、彼女がいる彼にとって私は2番手で、始まりは不毛な恋

朝の時間がない中で、毎日攻防を繰り広げてはイライラする。
付き合って3年半の秋に入籍、結婚してもうすぐ2年。
「新婚」と呼ばれる時期だけど、毎日はそんなに甘くない。
「あぁ……もうなんでこいつと結婚したんだろう」なんてこころの中でつぶやきながら、急いで朝の準備をする。
蝉の鳴き声がして、夏の風にあたって、ふと思い出したこの関係の始まり。

「俺、お前とは付き合えない。ちょっと賢すぎるよ、遊べないもん」と言われた数年前の夏。
「わかってるよ、別にあなたのことが好きなわけじゃないから」なんて答えたあの日。
その日から始まった2番手という生活。

彼には長いこと付き合っている彼女がいた。
かわいくて、従順で、何も気付かない子なのだと彼は言った。
私はどちらかというと逞しくて、生意気で、勘がいい方だ。
勘がいい方だから、気付いてはいた。このままではいけないこと。
どんどん自分が、そんな彼に惹かれていっていること。

この始まりようもない恋は不毛で、傷つけるものが多いということ。
何度も自分を責めて、この関係を終わらせようと思った。
始まらない恋は、寄るすべもなく、本当に頼りたいときには儚いものだった。
それは苦しくて、痛いけれど、彼の腕に包まれてしまえば甘くて甘くて仕方がなかった。

彼女と別れて違う子を選ぶ彼。もう会いたくないのに腕を振り払えない

そんな関係が1年続いた。
相変わらず会っているときは刺激的だけれど、離れてしまえば寂しく何も残らなかった。
そして彼はとうとう彼女と別れた。
これは、私を選んでくれる、と意気込んでいたのに、選ばれたのは違う子だった。
「もう無理、会わない」と彼に告げたのに、彼は私を抱きしめるだけ。
バカなのかな……って、そんな相手にも、そしてそれに胸がうずいている自分にも反吐が出た。
嫌気と虚しさと……それでも腕を振り払うことはできない自分。

それから数か月が過ぎた冬、別の人と出会った。
とても良い人だった。彼への思いは捨てきれないまま、それでも新しい恋へと踏み出そうと決意し、それを彼に告げた。
また腕を伸ばしてきた彼に、必死の思いで振りほどいて別れを告げた。

「やっぱりお前がいないと」。彼の腕に包まれて、私は毎朝恋に落ちる

1年経った冬、ひとり身になった彼が私の前に現れた。
私も結局別の人との恋はうまくいっていなかった。
突如伸びてきた腕に包まれ、「やっぱりお前がいないと……」という声を聞いた。
私が求めていた温かさだった。

そこから約5年経った今、「始まらない恋」は「終わらない恋」になった。
朝起きて、彼の腕に包まれては、恋に落ちる。
イライラと愛しさと、様々な思いの嵐に巻き込まれながら、瞬間瞬間で恋に落ちる。
「終わらない恋」、きっと大変だけれど、これからも大切にしたいこの思い。