自分は現在進行形で恋はしていない……と思っていたが、「もしかしたらずっとくすぶり続けているのかもしれない」と、たまに思うことがある。
恋愛感情を抱いている、とは少し違うが、自分の中でけじめや区切りをし切れていないような気がしている相手がいる。

異性が怖いと口にする彼。私もここ数年で意味が理解できるように…

彼とは悲しいぐらい本当に何もなく、友人として年に数回会うことがあるが、決まって誰か他にも共通の友人たちが一緒で二人きりになるなんてほとんどない。
何もないと言っても、私が気持ちを伝えたことは過去にもちろんあった。でも、発展することがなかったので「何もなかった」とあえて述べた。

彼は「女性が怖い」と口にした。日々の彼の様子からなんとなくそんな気がしていていた。なので当時はその一言で納得した。
でも、本当にその言葉の意味を理解できるようになったのは、もしかしたらここ数年の事かもしれない。私も男性が怖いと感じるようになってしまったからだ。

男女逆の話だが、少なくとも近しい感覚を持ったに違いないだろう。彼がどんな事がきっかけで「女性が怖い」と感じるようになったかはわからないが、私のように何かしら異性に対してトラウマになってしまった出来事があったのだろう。

異性に恐怖心を抱くのは特段珍しいことではない。むしろ、多少警戒しながら人は他人と関係を持つものだから、大なり小なり恐怖心はあるものだ。
しかし、何もないのに反射的に異性に恐怖心を抱く人はやはり過剰な反応という話になるだろう。

このままでいいのだろうか?頭の片隅に引っかかり続ける彼の言葉 

ある初夏の平日に彼と私と後輩の3人で集まって何気ない、本当に気を使わない雑談をしていた。後輩は早くに家庭を持って、子どももいてとても幸せそうだと常々私は思っていた。彼と二人で後輩の家に遊びに行くこともあり、子ども達もいい子に育っているのがよくわかる素敵な家庭だ。自然と話題は「家族を持つこと」に対する各々の意見交換となっていた。私は男性恐怖症をなんとかしてパートナーを見つけて、いずれは結婚、出産をしたいと思っていたので、さも当然のように家庭を持ちたいと主張した。

一方彼は「思わない」と言った。理由はなんだかあやふやで、それ以上深くは聞けなかった。子ども達と遊んでいる姿を何度も見てきたが、私は彼も楽しんでいるのだとばかり思っていたのにその言葉に小さく胸が痛んだ。「どうして?なんで?」そう疑問に思った。想像しないのか、願わないのか…あるいは考えないようにしているのか。理由はどうあれ、「女性が怖い」と思うことが関係しているのは明白だろう。

「このままでいいのだろうか?」

お節介なのは重々承知しているが、自分の解決もままならないのに彼の事が心配になった出来事だった。彼とは気がつけばかれこれ10年以上の付き合いになっていて、今では大事な友人になっている。その彼もいつか幸せになってほしいと願う一人でもあったから、頭の片隅に彼の言葉が引っかかり続けている。私が想像していた幸せを彼が望んでいないという言葉が。

動かない現状。久しぶりに会った友人と共通の問題を抱えていた

男性恐怖症と自覚してから、「私に何かしら問題があったのではないか」とよく自問自答して、悶々としてた時期があった。
原因として思い当たることもあるにはあるが、そこからどうすれば抜け出せるか全くわからず数年経って、あっという間に二十代の終わりが見えてきてしまった。

多方面の事情もあったが、動かない現状に耐えかねて仕事を辞めて、思い切って北海道まで旅に出た。計画を立てていた中でふと、「札幌の友人に会おう」と思い立ち連絡を取った。高校時代の寮生仲間で3年間共に過ごした一人だった。

久しぶりにもかかわらず、話ははずみ、自然とディープな話題にもなった。事前連絡の雑談の中で「もしかしたら……」と思っていた節はあったのだが、私たちは共通の問題をお互いに抱えていた事がわかった。

彼女も異性に対して複雑な事情があった。
ケースは違えど、私も自分の事を話した。
異性が怖いこと、悩んでいること。それがもとで男女の関係になった人がこれまで一人もいなかったこと。

吐き出したら「自分だけじゃなかった」と、不思議と安堵して胸の底にずっとあったモヤモヤが減った気がした。言葉にすることで自分の中で整理されて、また違った方面から自分の感情と原因を見れた気がした。

少しだけ前に進めるかもしれない。勇気をもって切り出してみよう

友人と別れてから一人の旅路は続き、その間も自問自答をした。
もし、できることならもう一度、彼と話したい。友人として、向き合いたい。
もしかしたら、彼と話すことで自分の中の何かとはっきりと決別できるかもしれない。
彼も、もしまだ女性に恐怖心を持っているなら少しでも前進できるように後押ししてあげたい。本当に家族を持つことに心底関心がない人だったらよけいなお世話かもしれないが……。

そんな思いが湧いてきた。恋愛以外の話題だが、学生時代の時は深い話を彼とも何度もしたことがある。今はたまにしか会わない関係でもまだそういった話は出来ると思う。

幸い、旅が終わったら会う約束をしていることだし、少し勇気を出して切り出してみよう。
少しだけ、前に進めるかもしれない。何かが終わるかもしれないし、始まるかもしれない。
そんな予感がする。