こうすべき思考の私。誰かと恋人になるのは不誠実な気がしていたけど

恋愛体質には2つの種類がある。
ひとつは、「誰かに愛されていたい」タイプ。
もうひとつは、「誰かを想っていたい」タイプ。
私は、後者だ。
好きな人を想う時、心の中に花が降る。
花は散るから美しいのだとしても、私はこの恋を、終わりにしたくない。

私には、離れたところに住んでいる恋人がいる。
紅茶と猫と青色が好きな、凪のように穏やかなひと。
彼のことを想う度に、視界にふわりと花が舞う。
「自分を愛してくれるひとを愛するべきか、自分が愛したいひとを愛するべきか」というのは恋愛において、腐るほどされてきた議論だ。

私は「こうすべき」思考になりがちな人間で、恋愛においてもその傾向があった。
愛してくれるひとを愛するべき。そうした方が幸せになれる。世間に溢れる恋愛一般論のようなものに、何とかして乗っかろうとしていた。
でもそんな考えで誰かと恋人関係になるのは、相手に対して不誠実な気がしていた。
彼は、私が「好きだ、一緒にいたい」と思って付き合ったひとだった。

面倒くさいと思われないために、飼い慣らした不安は膨れていった

7月、私は心の調子を崩した。様々な要因が重なった結果極度の不安症に陥り、気持ちのコントロールがうまくできなくなった。
私は恋人に「私のこと好き?」と聞けるタイプでも、「私はこの人から紛れもなく愛されている」と自信を持てるタイプでもない。

だからこそ、「ちゃんと想われている」と感じたかった。近くにいたら感じられたかもしれないけれど、時勢柄会うことも難しく、想っているのは私だけなのではないかと不安だった。
そんなことを伝えたら面倒くさいと思われる、そう思うと更に不安になってしまい、一人で必死に不安を飼い慣らすしかなかった。

「私が想いたいから想うだけ、相手に見返りは求めない」
その覚悟で、付き合うことを決めたはずなのに。
好きだと、つい求めてしまう。想ってほしいと思ってしまう。伝えてもらえないと不安になってしまう。何も言えないまま私の不安は膨らみ、いつしか怪物のようになってしまった。

彼を失っても世界が終わるわけじゃない。それでも彼に想われていたい

愛したいひとを愛するということは、いつか大切なものを失うかもしれないという覚悟が必要。
そんなこと分かっていたのに。失うかもしれないという不安が、毎晩私の首を絞めた。
いっそ先に失ってしまったほうが楽になるのではないかとすら考えるようになった。失ってしまえば、「いつか失うかもしれない不安」からは解放されるから、でもどんなに苦しくても、「別れよう」の一言が言えなかった。嫌いになれたら楽なのに、どう足掻いても、彼のことは好きなままだった。

「男なんて星の数ほどいるじゃない」
そんな言葉は、新宿のネオンくらい沢山浴びた。
わかっている。彼を失っても世界が終わるわけではないし、生きていけてしまうことくらい。

それでも私は、彼を想っていたかったし、彼に想われていたかった。
「誰でもいいから愛されたい」という状態は、心に空いた穴の“周り”に土を盛るようなものだ。相対的に穴は深くなり、虚しさからは逃れられない。
心の空白は、「愛されたい人に愛される」ことで初めて満たされるものだ。

でも、それはすごく難しい。
自分にも感情があるように、相手にも感情がある。どんなに想ったところで、同じ質量の想いが返ってくるとは限らない。
私も彼も見知らぬ人も、そうやって誰かに傷つけられ、誰かを傷つけて生きている。

不安状態の私を家に置いてくれた彼。「この人が好きだ」と思った

一人で苦しんでいる私に、彼は「帰っておいで」と言ってくれた。
会いにいくことで楽になれるか不安だったし、迷惑をかけることも不安だった。それでも、息も絶え絶えに、私は彼に会いに行った。

あんなに「もうだめだ」と思っていたのに、顔を見たらすぐに心が解けて、離れたくないと思ってしまった。言葉が出なくなるくらいの不安状態にあった私を、彼は2週間弱、家に置いてくれた。

滞在中少しずつ、今まで不安に思っていたことを伝えた。伝えることすら不安になってしまっていたことも。
何度も言葉に詰まった。伝わらないことがかなしくて、ぼろぼろに泣いてしまった。彼は沢山困ったと思うけれど、私を外に放り出したりはしなかった。「ちゃんと聴いてるよ」と伝えてくれた。

一緒にいれば、深く傷つくこともある。彼を傷つけることもある。初めて「同居」のような期間を過ごし、かなしいことも苦しいこともあったけれど、最後は「このひとが好きだ」に帰着した。
私は、遠くにいても、彼のことを想っていたいと思った。

大切なのは、自信を持って想い想われていると感じることだ

彼がどんな風に私を想ってくれているのかは、彼にしかわからない。彼だって、私がどんな風に花びらを降らせているか知らない。
大切なのは、自信を持って、想い想われていると感じられることだと知った。
帰りのバスの中で、彼のことを想った。
目の中にひらりと、花びらが降った。

恋愛は恐ろしく厄介だ。
わかろうとするほど、わかりあえないことばかりわかる。
好きだから期待するし、その度何度も傷つく。
自分が傷つくことは、時に相手を傷つける。

それでも、好きなひとを想うことは、とても美しい。
どんなに想っても、いつか失ってしまうかもしれない。それならせめてこの瞬間の、純度の高い「好き」を大切にしようと決めた。

今日は、この恋は終わらない。
これから一体、何色の花びらが降るだろう。わからないけれど、今宵の空は藍色です、そちらはどうですか。