終わらない恋の理由。それはきっと、私が臆病すぎるから。迷って、悩んで、躊躇している間に、相手がふわりとどこかへ行ってしまうから。

そして、私が、執着しすぎてしまうから。

趣味の吹奏楽の集まりで出会った彼女。私は彼女を好きになった

好きになった人がいた。趣味の吹奏楽の集まり。おなじ楽器を担当していて、ものすごく楽器が上手かった。

彼女が吹く音は澄んでいて、やわらかい。どこまでもどこまでも響いていきそうで、こころの奥にすうっとしみこんでいくようで、私はそんな彼女の音を聴くのが好きだった。

私の知る彼女は、忙しい人だった。笑っている顔は、あんまり見たことがなかった。唇をきゅっと結んで、あわただしそうにスマホをチェックする。

昔の彼女を知る人は、「ほんとうにニコニコしてる子だったんだよ」と口をそろえて言った。私が知らない彼女の顔。私の知らない彼女の物語。

私の知らないことばかりで、それを思うと苦しくて、かなしくて、どうして私はいま、彼女に出会ってしまったんだろうって、深夜の煌々とした明かりのなかでよく思ったものだった。

でも、やっぱり、会えるとうれしくて。視線は勝手に彼女を追うし、胸は容赦なく高鳴る。どうしようもなく、彼女が好きだった。

好きだった彼女が、吹奏楽部を脱退することに。私の心はざわついた

なのに、彼女は突然いなくなった。私たちは、演奏会を前日に控えていた。いい天気の日で、空は抜けるように青かった。

なんとなく浮き足立った午後のなか、一枚のメモがまわってきた。「××ちゃんが、今回の演奏会をもって退団します」。

あとはもう、なにがなんだかわからなかった。メモに促されるがままに、寄せ書きのメッセージを書いて、ざわついた空気のなかを、みんなといっしょにざわつかせた。

いなくなる。彼女が、いなくなる。その事実がどうしようもなく痛くて、頭はカーッとしているのに、手先がどんどん冷えていく。私が彼女と話せたのは、たったの4回だった。

演奏会が終わって、最後のときが来た。
「みそらちゃん、吹奏楽、続けてね」。
「……はい」。
それが、最後の会話で、話した総回数は5回になって、私はもう、彼女に会えなくなった。月がやたらとひかる夜だった。

拒絶されるのが怖くて、彼女に話しかける勇気を最後まで持てなかった

私は、臆病だ。彼女のことがどうしようもなく好きだったのに、話しかける勇気を、最後まで持てなかった。拒絶されるのが怖かった。ずうっと目で追っていた蝶々は、急に視界から消えてしまった。

私が好きになった人だもん。きっと、次への一歩を踏み出したんでしょう。

でも、私はまだ、消えた蝶々を探し続ける。探し続けてしまう。

最初に会ったときの「よろしくね」というあまやかな声、地域のお祭りで演奏した「君の瞳に恋してる」のメロディ。失敗してテヘっと笑ったいたずらっぽい顔、エネルギーの全てを傾けて奏でる楽器の音。

どこにいるの、私はこんなにあなたを好きなのに。出てきて、出てきて、出てきて。お願い、1回、1回だけでいいの。もう1度、チャンスをくれませんか。

そうやって、蝶々のいない森を延々と歩き続ける。歩き続けてしまう。それが、私の、恋が終わらない理由。