なんかすごい話しかけてくるな、私はそう思っていた。
最初から人と心を通わせて仲良くできない私は、話しかけられても曖昧に適当に返答していた。

最初は面倒に思っていた彼との会話も、少しずつ楽しみになっている私がいた。おバカな話をして笑わせてくれたり、たわいない話をごく普通に楽しめていた。
気取らなくてよくて、自然でいられる。疲れない人だと思った。素の私を否定しないで、優しく受け入れてくれている気がした。

彼は私の殻を破って、毎日の単調な生活に色を足してくれた

少し気楽に話せるようになったころに、私の第一印象はいつもよくないことを彼に話した。そしたら、彼も少し同感して、「最初少し殻にこもっているところ少しあるよね」と言った。
そんな私にあえて沢山話しかけて、少しでも距離を縮めようと試みていたんだと打ち明けてくれた。
そんなことに全く気付いていなかった私は驚いた。でも同時に少しだけ嬉しくなった。

毎日のイライラとかやるせなさが、彼と話すことでどうでもいいことに思えた。彼に最近どうかと聞かれたから、最近起きた不快な出来事を話してみると、そんな嫌な出来事も冗談にして私を笑わせてくれた。
体調が悪い時は、心配してくれて、気遣ってくれた。彼の優しさが身に染みて、嬉しかった。私自身のことを人に話すのが苦手な私が彼になら、話すのが苦にならなかった。

私はいつの間にか彼に心惹かれていた。毎日の単調な生活に色を足してくれた。彼が私に話したことをたまに忘れて、同じことを何回か言ってくる彼でも好きになっていた。

ふと気が付いた。彼の左手の指元が光っていることを

紙を両手に持ちながら、あることを私に真剣な顔をしながら説明してくれていた。私も彼が一生懸命に説明してくれるから、真面目に彼が持つ紙を見ながら説明を聞いていた。
説明をちゃんと真面目に聞いていた時、私は気が付いた。彼の左手に輝く指輪が光っていることを。

なんで、今まで、彼の手元を確認しなかったのかと不思議に思う人もいると思う。
でも、私はまさか、彼がもう既に誰かと結ばれているとは思いも寄らなかったから、わざわざ彼の手元を確認する必要性が思いつかなかった。
彼は私が何に気が付いたか知らずに説明を続けた。私は動揺を隠しながら説明を真面目に聞いているふりをするけど、何も頭に残らなった。

別の日、彼は彼の子どもの話を私に楽しそうにしてきた。
順調に大きくなっていること、どんなに可愛いか、子どもにまつわる面白い出来事などを教えてくれた。
私は別に聞きたくなかったけど、興味があるふりして聞いた。彼がお子さんのことを大事に思っていて、愛おしく思っていることが嫌でも分かった。パートナーとどこで出会ったかについても少し聞いた。

笑みがこぼれるのは、好きじゃなくて少しからかいたいだけ

私は彼が既婚者だと知って、私の彼への思いは誤解で妄想だったと思い込むことにした。
私は既婚者には興味がないから、彼が既婚者だと知って私の気持ちが一気に冷めた。

ある夜、キーワードで「既婚者 好き」と打って、ネットサーフィンしている私がいた。
訴えられる、いいことはない、諦めよう、辛い恋などと書いてあった。
私は彼の子どもやパートナー、そして彼の幸せを壊したくないと思った。諦めなくてはいけない恋だと悟った。

彼と会うとそれでもつい頬が緩んで、ニヤッとしてしまう。彼は私がニヤッとすると不思議がる。少し嫌がっているようにも見える。だから、また、違う夜に自然とこぼれる笑みを辞める方法をインターネットで検索した。
また、「好きじゃない ニヤニヤする」って検索すると、馬鹿にしているとついニヤニヤしてしまうこともあると書いてあるページを見つけた。
もしかしたら、私の好きって思いは誤解で、本当は彼を馬鹿にしていて、少しからかってしまいたいだけなのかもしれない。

ニヤニヤしないようにするために、私から話しかけることを控えるようにして、素っ気ない態度で接することに努めた。
私は必死に彼に会う時は頬が緩まないように身構えて、気持ち引き締めているのに、やっぱり顔をみると無意識にニヤニヤしてしまう。でも彼は何故かもう嫌がらなくなっていた。そして何故か少し私にボディータッチをしてくるようになった。

前よりも話に来てくれる。やっぱり彼と話すと、話が盛り上がって、楽しくなっている私がいる。「いつか飲みに行こうよ」って彼は言った。だから私は「そうですね、1年後ぐらいに」と言ってその場を去った。