3年前、私は大学2年生だった。
大学生活では、勉強やアルバイト、恋愛や交友関係などの日々に追われて、いつの間にか全てを「こなす」ようになっていた。日々の過ごし方や、友だちとの関わり方、自分自身について考えることを放棄し、毎日をなんとなく過ごしていた。
母親が勧めた服を身につけ、恋人が求めるように振る舞い、友だちが喜ぶような自分を演じた。「他人軸」で生きていた。可もなく不可もない毎日に満足してはいたが、心の中では「このままでいいのだろうか」と悶々としていたのを覚えている。
マンネリ化した毎日を抜け出すため、独りになってリセットしたかった
ある日、「3年生になると1年間交換留学で好きな国で勉強できる」ということを知る。私は、マンネリ化した毎日を抜け出す絶好の機会だと思い、留学を目指し勉強するようになる。
無事、留学に必要な基準を満たすことができ、交換留学に行けることになった。選んだ国は、ポルトガル。理由はいろいろあるが、「どうせ行くならよくわからない国がいい」「天気がいいほうがいい」など複合的な理由で、「えいっ」と指差しで決めた。
正直どこでもよかったのだ。誰も私を知らない場所に行き、独りになってリセットしたかった。
ポルトガルでは、多種多様な人々に出会った。彼らと会話をしているといつも「あなたはどう思うのか」と意見を求められた。授業でも日常でも、「意見を発信する」ことがその場に「存在する」ことであった。そのような環境の中で、私は政治や社会問題に自分なりの意見を持つようになっただけでなく、日常の色んなことについてよく考えるようになった。
友だちとの関わり方から日々の過ごし方、「私が幸せを感じる時はどんなとき」「この先の人生をどう歩んでいきたいか」など、考えを巡らせ、発言し、語り合った。自分の行動や発言について考える良い癖がついていた。
留学中、思い思いに人生を歩んでいる人々に出逢い、考え方が変わっていった
なにより、自分の心にフォーカスできるようになり、今までの「他人軸」ではなく「自分軸」で行動や生活を決めることができるようになっていた。今考えると、ポルトガルでの1年間は贅沢な「雨宿り」であった。自分のことを知れば知るほど、自分の気持ちに素直に行動すればするほど、ずっとモヤモヤしていた心の中が少しずつ晴れていった。
なかでもよく考えたのは、大学卒業後の進路である。今まで順当に社会のレールを辿って大学まで進んできた私は、大学卒業後は就職するのが当たり前だと信じて疑わなかった。しかし、留学中に思い思いに人生を歩んでいる人々に出逢い、考え方が変わっていった。
世界中を旅して周っている人もいれば、子育てをしながら大学で学び直している人もいた。彼らは、伸び伸びと「心からやりたいこと」をしながら、責任を持って人生を歩んでいる。私はそんな彼らに憧れたし、自分もそうありたいと思った。
心がときめく方向に進みたいと思い、心に従って決めたデザインの道
自分の心がときめく方向に進みたいと思い、大学卒業後は「デザイン」の道に進むことを決めた。ずっとやってみたかったが、勇気を出せずに一歩踏み出せなかった道。「一度きりの人生なのだからやってみよう」と、心に従って決めた「自分軸」の決断である。
卒業後は就職はせずに、専門学校に入ってデザインを一から学ぶことにした。周りが就職していく中で、自分だけ別分野への進学。社会のレールを外れることは、勇気のいることだったが、怖くはなかった。「自分軸」で決断し道を切り開いていくことにワクワクしたし、そんな自分を誇りに思った。
というわけで、私はいま専門学校でデザインの勉強をしている。毎日が忙しく、新しいことの連続である。人と比べて落ち込むこともあるが、2年後にデザイナーの卵として社会に出ることを目標に、自分を奮い立たせてなんとか頑張っている。
これからの人生も、悩みながら、いくつもの決断をしながら進んでいくのだろう。5年後も10年後も、ポルトガル留学で手に入れた「自分軸」を味方に、自分らしい道を歩んでいたい。