私が歩みを止めたとき、彼も歩みを止めていた。
だからこそ、私たちは歩み寄ることができた。
泣かずにはいられなかった5月に唯一楽しみにしていた彼とのLINE
「頭が痛くてトゲトゲしてる」
「もう終わりにしてほしい」
「これ以上生きたくない」
「しんどい」
5月5日の日記には、絶望的な言葉が並んでいた。
月経前、私はダメダメになる。
周りの音に過敏になったり、わけもなく涙があふれてきたりするから、外出できなくなってしまう。
ましてや、頭や肩、腰が重くなったり、強い眠気に襲われたりするため、布団から出ることすらままならない。
こんなPMSの症状が、ここ1、2年くらい決まって毎月あらわれていた。
そして、今年の5月は特に症状が重かった。
普段なら生理が来ればケロッと治るはずなのに、3週間近く心身ともに立ち直れなかった。
そこで、6月上旬まで研究を休むことに決めた。
修士2年目の大事なときなのに……。
歩みを止める罪悪感にとらわれて、毎日泣かずにはいられなかった。
そんななかで1つだけ、楽しみにしていたことがある。彼とのLINEだ。
彼は、研究熱心で、誠実で、信頼のおける研究科の同期だった。
研究室で会ったときには、お互いの研究について相談し合える大事な仲間だった。
そして、初めて会ったときに一目惚れしてから、ひそかに想いを寄せていた相手だった。
休学を選んだ気になる彼。ただの同期だけど、諦められなかった
だから、とてもショックだった。「がんばりすぎて体調を崩してしまった」と聞いたときは。
その後、彼は休学という、歩みを止める決断をしていた。
「よくがんばってた、だからゆっくり休んでいいんだよ」と言って、抱きしめてあげたかった。
けれど、ただの同期でしかない私に、そんなことはできなかった。
それでも、諦められなかった。
このまま彼との関係を疎遠にしたくない!
こんなときだからこそ力になりたい!
そう思った私は、彼にLINEを送りつづけた。
「体調はどうですか?」
「今日は雨風強いですね」
研究以外の、他愛もない話がつづく。
彼とLINEをしているあいだだけは、歩みを止めている罪悪感から解放されていた。
それから、ふたりで頻繁に話をするようになった。
LINEで共通の趣味について語りあったり、夜中に長電話をしたり、リハビリがてらカフェでお茶をしたり……。
そして、「次はカラオケ行こうね」と約束した。
勇気を出して休んだからこそ実った恋。ときには止まる勇気も必要だ
お互いの体調が落ち着いてきた6月下旬、カラオケ店に行ったけれど、あいにくの満席。
どうしようか、と次の手を考えていたら、「俺の家、来る?」とうれしいお誘い。
高鳴る鼓動がバレないかドキドキしながら、彼の一人暮らしの部屋にお邪魔した。
そこでまた他愛もない話がつづく。
話の流れで、「俺のこと、どう思ってる?」と聞かれ、つい口ごもってしまった。
終電までのカウントダウンが頭をよぎる。
ここで言わなきゃ……!
意を決して、ずっと気になっていたことを伝えた。
「いや、実は俺も……」
私たちは両片想いだった。
「抱きしめていい?」と聞かれ、「うん……!」と答え腕を広げた。
彼の華奢な身体を優しく抱きしめる。
やっと抱きしめることのできた身体が、意外にも肩幅の広いその身体が、力強く私を抱きよせる。
もう少し生きてみようかな、と思えた。
私も彼も、休むことを迷ったときもあった。
でも、私たちは勇気を出して休んだ。
こうして偶然できあがった時間の隙間で、私たちは気持ちを確かめあうことができた。
勇気を出して休んだからこそ実った恋。
一度歩みを止めて、そして歩み寄ったふたりだからこそ、ゆっくりのんびりマイペースに、
ときには止まる勇気を持って、ともに支えあいながら、歩みを前へと進めていきたい。