大学時代の私はとにかくアクティブで、常にバイトは2つか3つ、ボランティアは2つ掛け持ちするのが当たり前だった。

周りからは「そんなに忙しくして体壊さないの?」と言われていたが、公私ともに充実させ、忙しさを楽しんでいたようだった。実習や就活、卒業論文作成などもあった大学4年生のときでさえ、スケジュール帳は予定で埋め尽くされていた。

この生活スタイルが私の「らしさ」なのだろうと思っていた。

新卒で就職した保育施設。なぜか仕事を心から楽しめていない自分がいた

私の「らしさ」は他にもいくつかある。どんなときも笑顔を絶やさないこと、辛いことがあってもポジティブに捉えて切り替えること、新しいことや興味のあることに挑戦していくことなど、自分の強みとして就活での面接で大いにアピールした。

就活の結果は第1志望の保育施設に合格。憧れの保育の道に進めることに、期待で胸が膨らんでいた。

私は、1歳児クラスの担任を務めることになった。小さい体ながらも懸命に自分の足で歩き、何もないところでつまずいて泣くような、1歳になったばかりのかわいい子どもたち。

入園したばかりの子どもがクラスの半数を占めていたので、初めての環境で泣き叫ぶ子どもをおんぶしながら、必死で保育をこなしていった。仕事は慣れるまでが大変だとよく聞いていたこともあり、慣れてからは楽しくなるだろうと自分に言い聞かせていた。

新入園児の慣れ保育が終わり、少しずつクラスが落ち着いてきた夏。とはいえ、イヤイヤ期真っ盛りのとても難しい時期の子どもたち。そのような子どもたち一人一人と向き合って自分なりに努力していると、少しずつ関わり方が分かっていく感覚があった。

自分の名前を呼んでくれる子どもも出てきて、心からかわいいと思う瞬間が増えてきた。それなのに、なぜか仕事を心から楽しめているとはいえない自分がいた。

やりたいことにも挑戦する時間がなく、私の「らしさ」が失われていた

そのときの私は、残業をしても家に持ち帰っても終わらない仕事量や、厄介で複雑な職場の人間関係など色々なことに押しつぶされていた。また、大学時代まで精力的に勉強していた英語からも離れ、好きだったことができていない自分が嫌になっていた。

ただでさえ体が疲れているのに、毎日のように頭が痛くなるほど悩んだ。無理に愛想笑いして先生たちの話に合わせ、職場でも家でもどんどんネガティブに考えてしまい、やりたいことにも挑戦する時間がない。私の「らしさ」がことごとく失われていると思っていた。

そんなときに毎週のように電話していたのが、大学時代に保育士補助としてアルバイトをしていた保育園の園長や先生だった。保育士の卵として、一から保育士の仕事を学び、子どもとともに私の成長も見守ってくれたアットホームな保育園。

私の興味分野など、よく理解して受け止めてくれている先生たち。一度外に出て経験を積むべきだと思い、そのままその園に就職することはせず、自分で就活することに決めたが、卒業するときに「いつでも帰ってきておいで」と先生たちに言われていたことをふと思い出した。

その言葉に甘えてしまうと、「新卒1年目なのに」「今の若者は心が弱いね」と周りから思われてしまう。でも、今の職場で苦しみながら、無理に続けていく自信はない。23歳にして早くも私は人生の岐路に立ってしまった。

悩んだ末、3月末で今の職場を退職し、4月からはバイトをしていた保育園で正規社員として働くことにした。勤めていた職場の園長には辞めることを止められ、次の職場の先生たちからは歓迎され、複雑な心境だった。それでも自分らしく働ける場所が一番だと思い、退職する日までは精一杯働こうと心に誓った。

退職時にもらった「いつも笑顔の先生」という言葉に涙があふれた

3月になって園全体に退職者が発表され、私の名前を見つけた先生たちも保護者も皆驚いていた。迎えた最終出勤日。子どもたちとの別れを惜しんでいる中で、先生たちやクラスの保護者から多くの手紙や寄せ書き、プレゼントをいただいた。

帰宅して手紙や寄せ書きを読んでみると、ほとんど全員の言葉の中に「いつも笑顔の先生」と書かれていた。1年間同じクラスの担任をしていた、大ベテランの先生からの手紙にも「一番の魅力である笑顔だけは忘れずに頑張って」と締めくくられていた。

コロナ禍での入職ということもあり、ほとんどマスクの下を見せることなく働いてきた1年間。マスク越しでも自分の笑顔は先生にも保護者にも伝わっていたこと、辛くても笑顔で働けていたことが分かり、涙があふれてきた。実は私らしく働けていたということが、退職したその日にやっと理解できた。

4月から正職として、バイトのときとは違う仕事内容に少し戸惑いながらも、馴染みのある場所で楽しく働いている。英語の活動も担当することになり、私の興味分野に時間を作ることができている。

時々3月にもらった手紙を読み返し、今の自分は私らしく働いているかを確かめる。これからも私の「らしさ」が自然と生まれる環境で働きたい、と強く願う。