憧れの人というと、浮かびがちなのは綺麗なモデルさんやアイドル、あとはとびっきりかっこよくて可愛い周りのちょっと有名な知り合い。そのあたりが多いのではないだろうか。
しかし、私がずっと憧れていたあの子はそうじゃなかった。
どこにでもいるようなといったら語弊があるが、特別目立った魅力がある子ではなかった。
でも、憧れていた。小学生のころから、ずっと。

面白くて頭もよく人気者のあの子と、面白くないし頭もよくない私

あの子はいつも話題の中心で、話が面白いし頭の回転が速い。ちょっぴり失礼なことも言うけれど、相手を傷つけないぎりぎりのラインを攻めているから不快な思いをする人もいない。
教室の隅っこに私がいると、真ん中からはその子が巻き起こした笑い声がしょっちゅう聞こえてくる。
当時目立ちたかった私からしたら、みんなを笑わせられる面白い人は憧れだった。あと、頭の良さも。あの子は私が欲しくてたまらない要素を全部持っていた。それでいて、自分の良さに気づいておらず、当たり前のような顔して過ごしていた。

そんなあの子といると、いつも自分には注目がいかない。皆あの子の方向を向いていて、一緒にいる私は空気のような存在になってしまう。
しょうがない、だってあの子は面白くて頭が良いのに、私は面白くないし頭もよくない。
でも、なんだか悔しかった。悔しかったし、誰からも言われていないのに誰かから「お前はあの子に比べてみじめだな」と言われている気がして辛かった。
私もあの子みたいに面白く、頭がよくなりたい。人気者になって目立ちたい。

ライバルのあの子に近づくべく、「面白くて頭のいい人」を本気で勉強

そこで私は憧れの、なおかつライバルのあの子に近づくべく、「面白くて頭のいい人」になる方法を研究していった。
本気で「面白い人 特徴」についてインターネットで検索して調べたし、あの子がこの場にいたらなんて言葉を選ぶのか、真剣に想像しながらいつも人と会話をしていた。
さらにお笑い芸人のトークが上手い人の動画を100回以上は見た。どこでどんな切り返しをすれば面白くなるのか、間はどのくらいか、相手に対して傷つかずにいじる方法はどんなのか、受験勉強より本気で勉強したんじゃないかってくらい努力した。
それくらい、私はあの子に憧れていた。

結果、高校生になったときには、「面白くて頭の回転が早い人」になれていた。自惚れも多少入っているのかもしれないが、「面白いね」と言われることは日常茶飯事だったし、「あのクラスといえば〇〇ちゃんだよね~」の〇〇ちゃんに私の名前が入ることも多かった。

ついにあの子を越せるかもしれないチャンスが。その結果は

今なら、あの子に届いているのかもしれない。
憧れの人を越せるかもしれない。
そんなことを考えている折に、あの子も含めて4人の友達で遊ばないかという連絡が届いた。
これはチャンスというか、今まで培ってきたものを活かす場じゃないか?
そう思い、ワクワクしながら遊びたいという返事を送った。

結果、だめだった。
あの子には全く届かなかった。
あの子の話は私の数百倍面白かった。頭の回転も昔と変わらず、「どうしてそこでその考えが浮かぶの?」と質問したくなるほどキレていた。努力して真剣に面白さについて勉強した私より、ずっと。
当然残りの2人はあの子の話を聞くようになり、私はショックで精一杯作った笑顔を何とか保つことしかできなかった。

あの子は、ずっと憧れのままだ。
憧れ以上になることもなく、以下になることもない。
ただただ、ずっと追い越せない憧れなんだと、私は唇をかみしめていた。