卒業式が近づいてきている。今年の卒業式は新型コロナウイルスの影響で行うことができるとは限らない。だから、もう会うことはないかもしれない。あの子にも。

同い年で安心した。ライバルであり、良き相談相手で、信頼できた

大学は地元を出て関東の大学へと進学した。標準語を話すお洒落な人に少し気圧され、私は一番後ろの端っこの席に着いていた。周りは入学前に会っていたとかSNSで話していたとかで、もうすでに友達ムード全開だった。当然、私は彼女たちのなかには入れず、黒板の方を見つめていた。

そんな中、「○○専攻だよね?」と隣から声をかけられた。緊張しながら頷くと、その子は「よかった。私もね…」と自分のことを話してくれた。私もその子も事情は違ったけど、周りより一つ年齢が上だった。一番気にしていたことだったが、同い年の子が居て安心した。それから、同じ授業を受けることも多く、よく一緒に行動するようになっていた。さらに、気が合い、休日にお出かけをする仲になった。

たぶん、私もその子も周りより勉強ができたんだと思う。専攻内でその子か私が一番を競っていた。だから、お互いをライバルとしても見ていたことは口にせずとも意識していた。しかし、ライバルであってもお互いを必要とし、分からないことがあれば聞き、良き相談相手でもあった。とても信頼できる人だと思っていた。

腹が立った。留学先が近くても避け、話さなくていいと考えていた

しかし、ある日ひょんなことで喧嘩した。ある友人が病気になり夢を諦めなくてはならなくなったのだ。私は耐えられず涙してしまった。

だが、その子はそれを許さなかった。休憩時間、「なんで」と問いただされ、理由を言っても「泣きたくて泣いたんだよね。○○ちゃんのことを思っていたら泣かないよね」と言われてしまった。

今まで、こんな喧嘩をしたことのなかった私はパニックに陥り「ごめんね、ごめんね」と謝ることしかできなかった。理解してもらえないこととちょっとした行動を咎められ苦しかった。

しかし、落ち着いてくると「なんで私はあんなに言われなければならなかったのか」と考えだし、だんだん腹が立ってきた。「私謝らなくてよかったんじゃないの」とすら思い、あの子が謝るまで話さないと決め込んだ。

次の日から私はそれまでと違う輪に入り、話すことはなくなった。そして、夏休みに入り会わなくなり、そのまま留学した。あの子と留学先が近かったが、会うことはあまりなく、会っても別の人と話すことであの子と話すことを避けていた。

こんなに話さないものかと少々驚きはしたものの、どうせ帰国したら話すことになるだろうと思っていた。だから、留学してまで話さなくていいと思っていた。

「良きライバル、良き友達」に戻りたい思いの方が強くなって

しかし、そう思っていた矢先、新型コロナウイルスの影響で帰国勧告され、私は地方の実家へ帰ることとなった。そのまま授業は全てオンラインに切り替わり、私は関東へ戻ることなく卒業まできてしまった。

会わなければ、こんなにもお互いのことが分からなくなるものか。
私は、あの子のその後を全く知らない。就職先がいつどこに決まったのかも知らない。あの子は勉強熱心だったし研究者に向いていると在学中ずっと思っていたが、どうなんだろう。大学院に進学するのだろうか。「あの子にだけは負けたくない」と今でも思っている。だから、私の夢に近いところにはいないでほしいと願ってしまう。あの子が私よりも有能なことはすでに痛感しているのだが。

しかし、それとは別にまた「良きライバル、良き友達」に戻りたい思いの方が強い。私は今まで「あの子が悪い。だからあの子が謝るまで話してやるもんか」と思っていたが、私がこれまで取ってきた態度は「謝るべきこと」なのではないだろうか。

今年の卒業式はあるか分からないし、会えるか分からない。でも、会ったら必ず言おう。

「今までのこと悪かったと思っている。ごめんなさい。また友達に戻りたいの」