あの夜があったから、私は彼を信じ、好きでいられるのだと思う。
付き合ったその日があの夜だった。私は19で彼は23、私は未成年で彼は成人。アルバイトの先輩に勧められたアプリ、初めて会う男性だった。
出会い系のアプリで出会った彼に会うのは3回目だった。3回目に会ったその夜、私たちは付き合った。
しっかり好きだった。学生の私とは違い、落ち着いていて頭の回転が早く、面白くてかっこよかった。とても大人にみえた。付き合うその日まで体は触れることはなかった、しっかりした人だった。私の家は厳しくハタチになるまで24時の門限がある、両親と位置情報を共有するまでであった。
付き合ったその日くらい、いいと思った、一緒にいたかった。一緒にいたいと言ってくれた、愛されたかった。
位置情報を知られたくなかったから携帯電話の電源を切った。彼に集中したかったし邪魔されたくなかった。コンプレックスを抱える彼は部屋を暗くし、体は見せてくれなかった。きっとこれから見せてくれるようになるだろうと未来をみていた。暗い部屋だったがとても幸せだった。
住所も名前もはっきり言えない彼。絶対に捨てられると思った夜
そんな時、部屋の電話が鳴った。なんで鳴ってるんだろう、間違えたのだと思ってすぐに出なかった。ずっと鳴り続ける電話、まさかと思い私が電話に出た。フロントの人が言った。
「警察の方が来ているので代わります」
周りが真っ暗になったと同時に誰がやったかわかった。
私はまだ未成年、出会い系のアプリで出会った人、突如消える位置情報、仕方ないのかと思ったけど許せなかった。
付き合って初めての夜、終わったと思った。今なら思い出もないし、簡単に捨てられる、もうだめだと思った。
警察の方に、怪我がないことを証明し、親が迷惑をかけたと謝り、泣きそうになりながら彼氏だと訴えた。住所も名前の漢字もはっきり言えなかったのが悔しかった、まだ何も知らないんだ、もうだめだ。
部屋に戻り彼に事情を説明、こんな親を持ってしまった私、取り返しのつかない黒歴史、これから付き合っていくには最悪の始まり、いろんなことが襲いかかり涙が止まらなかった。
もうだめだ、絶対に捨てられる。そうだよね、人生ってそんなにうまくいかないよね……。
ごめんなさいと謝る私。次も会おうと抱きしめてくれた彼の言葉は…
「本当にごめんなさい、本当にごめんなさい、こんな子、嫌だよね、もう会えないよね、もう会ったりしてくれないよね」
その時彼は何も返してくれなかった。
「とりあえず帰ろうか」
車での移動その時間は地獄だった、涙も出ない、覚悟していた。
彼は車をとめ、タバコを吸いながら、少し話そうといい私を抱きしめた。
「次も会うよ」
絶対に嘘だと思った。口だけだと。会って3回目、逃げることも捨てることも簡単だ、まだ私たちはお互いのことをなにも知らない。私は門限を超え家に帰った。
その彼とは今もお付き合いしている。
会ってくれた、彼は嘘をついたりしなかった。
私達にとって最悪の始まり。最悪の思い出だ。でも、その夜は彼の心の広さと愛を証明してくれた。
その夜があったから、私は彼が責任のある素敵な男性だと信じ愛していられる。