「忘れられない初恋」なんて響きのいい言葉ではない、これはわたしが墓場まで持っていくと決めた「超極秘案件」だ。

互いに異性として意識することのない「仲のいいクラスメイト」の彼

彼との出会いは中学校、仲のいいクラスメイトのひとりだった。
わたしは文系で、彼は理系。学力もおんなじくらいだったから、よく勉強を教えあっていたし、仲のいいメンツで一緒に模試を受けに行ったりもした。

お互いに恋人(と呼ぶほどの関係でもない、友達に毛が生えたような存在)もいたけれど、なんなら初めてできた彼氏も、その次の彼氏も、彼の紹介だった気がするけど。
お互い特に異性として意識することはなかった。だからこそ一緒にいることに対して疑問も抱かなかったし、一緒にいない理由も見当たらなかった。

高校に入学してからは環境が変わって、全く連絡を取らなくなっていた。
わたしは大好きな韓流アイドルを追っかけるためにバイト三昧だったし、彼はどうやら部活を頑張ってるみたい、ということは人づてに聞いていた。マネージャーと付き合って、学校生活も順風満帆。高校生らしくて、なにより元気そうで安心した。

成人式を機に増えた彼と会う時間。少しずつ「好きかも」と思うように

時は経ち、成人式でぱったり再会した。まあよくある話である。
5年間連絡を取ってなかったとは思えないくらい、今まで通りのいつも一緒にいた彼のままだった。初めて一緒に飲んだ同窓会の瓶ビールはぬるくて最悪だった。

大学生は人生の夏休み、なんて的を射たキラーワードだろう。それからわたしたちは人生の夏休みのほとんどの季節を一緒に過ごした。春は花見、夏はお祭り、秋は飲み歩き、冬は鍋パーティー。片手にお酒、片手にマイクを持ちカラオケでオール、眠い目をこすりながら昼からバイトをする日常だった。

気心知れた古くからの友達と、彼と、過ごす時間が増えていった。
わたしにも恋人がいた時期があったけれど、続かないことが多かった。
そのときは恋愛向いてないから~なんてはぐらかしていたけれど、彼と過ごす時間が楽しくて、でもその気持ちに向き合うのが怖かっただけなんだと思う。
思い出が増えていくたびに、当時の彼と比べては、少しずつ、好きなのかもしれないと思うようになっていった。

初めて彼女を紹介された夜。彼なりの精一杯の優しさだった

実のところ、わたしは彼の一番の女友達、というわけではない。「仲のいい女友達のひとり」だ。
彼は比較的、女友達が多いタイプだったので、女絡みで彼女ともめることも多く、歴代の元カノの愚痴は聞いてきたし、あまり続かないタイプだということも薄々気づいていた。
よくある「お互い30になるまでに恋人がいなかったら結婚しよう」なんて口約束を交わしたりもしていた。だからなんとなくこのまま一緒にいられる気がしてた。アホくさ。

大学生のころのような豪快な遊び方は出来なくなったけれど、社会人になってからも頻繁に連絡を取り、二ヶ月に一回くらいはみんなで地元の居酒屋に集まって、最近の出来事やら仕事の愚痴やらを語っていた。

どうやら彼は同期の女の子と付き合い始めたらしい。まあ、よくあることだ。どうせ「束縛されて面倒臭くなって切った」とか言い出すに違いない、そうしたらまたお酒でも飲みながら笑い飛ばしてやろう、とさえ思っていた。

あの夜、初めて彼女を紹介された。わたしが仕事で大きなミスをして、誰かに話を聞いてほしくて頼ったのが彼だった。初めてのことだった。わたしは彼に恋人がいるときはふたりで会う約束はしないというルールを決めていた。

だけどひとは弱っているときは本能的に行動してしまうらしい、いつの間にか彼に電話をかけていた。すると彼がひとこと「今からドライブでもしよう、彼女も一緒でもいい?」と。
彼なりの精いっぱいの優しさだったと思う、こういう話は女同士のほうがしやすいに決まってる、特に前情報がなければない方がフラットに話を聞けるのではないか、と。

適わないと思った彼の恋人。一生隠し通さなければいけないこの想い

学生時代によく一緒に登っていた、星が綺麗に見える山の上で、わたしは初めて彼の恋人を紹介された。彼女は初めましてでボロボロなわたしを抱きしめてくれた。
わたしは恥ずかしげもなく彼女の胸で泣いた。仕事のミスなんて心の片隅に移っていた。正直敵わないと思った。いろんな感情が押し寄せてきて、涙が止まらなかった。フルボッコ(死語)である。

あの夜があったから、わたしは自分の気持ちを秘密にすることにしたのだ。

この気持ちは親しい友達にも一切話していない。わたしは自分の気持ちに蓋をして、彼の「仲のいい女友達のひとり」でいることに決めたのだ。
近い将来、わたしは彼の結婚式に新郎側の友人として参列することになるだろう。あのとき優しくしてくれたあの素敵な彼女と、大好きだった彼の結婚式に。

挙式でも、披露宴でも、きっと泣くことになると思う。
わたしがどんな気持ちで泣いているのかは、一生隠し通さなければならないし、この気持ちは誰も知らないままでいいのだ。わたしがそうするとを決めたのだから。